UBSで不正取引が発覚したトレーダーが一体どのくらいの給料を貰っていたのかについてロンドンのeFinancial Careersの「屠殺夫人」ことセーラ・ブッチャーが次のように書いています:

デルタ・ワン・デスクの或るヘッドハンターは私に次のように語った。「クウェク・アドボリはたぶん基本給で12万ポンドくらい貰っていた筈だ。若し彼の年間売上高が500万ポンド程度だと仮定すればボーナスは25万ポンド程度だったのではないか?ただ彼はUBSのミドルオフィスからフロントオフィスに配置転換されただけで同業他社を渡り歩いていないのでもっとお給料は安かったとも仮定できる。


ミドルオフィスというのはバックオフィス(受渡部)とフロントオフィス(営業部ないしトレーディング部)の中間を指し、基本受渡部的な業務が中心ながら或る程度フロントの仕事もこなす部署を指します。

一般に欧米の投資銀行ではバックオフィスよりフロントオフィスの方がお給料は高いです。バックオフィスとフロントオフィスの間には見えない壁があり、日本の会社のような転勤はありません。だからバックオフィスの人は一生バックオフィス、フロントオフィスの人は一生フロントオフィスという可能性の方が高いのです。

ただ例外もあります。

それは業務が急拡大しているようなビジネスです。デルタ・ワンはETFの急成長とともに巨大化したデスクですのでどんどん人材を投入する必要がありました。しかも大量の証券を常時取引して細かい鞘を抜くような仕事ですから数理的な事や受渡のノウハウをわきまえた人間じゃないとフロント・デスクも勤まらない部分があります。

このためミドルオフィスからフロントへと社内抜擢される人が多かったのだそうです。

通常、ミドルオフィスの人間は伝票処理など細かい作業を知り尽くしているのでチョッとヘマをしたミスを隠すなどの知恵は働きやすいです。

今回の事件でもクウェク・アドボリが良心の呵責から自ら上司にトレーディング損を打ち明けるまでUBSの幹部はぜんぜん気が付いていなかったと言われます。(情けない会社ですね。)

たぶん彼の場合も最初は些細なエラーを隠すために不正な伝票処理を行ったのだと思いますが、最後には嘘がどんどん膨れ上がり、彼の最後のFacebookの書き込みには:

I need a miracle.(ボクが助かるには奇跡が起こるしかない!)


とあります。ずいぶん悩んだに違いありません。

鞘取り中心のETFデスクで20億ドルの穴を開けるということは建て玉ベースではその何倍、何十倍ものポジションがきちんと把握できていなかった可能性があります。


これを見過ごした彼の上司は無能なのですぐクビにされるべきです。

またUBSのリスク管理はオソマツだという事が世界中に知れ渡った以上、株主の手前UBSの幹部も引責辞任すべきです。

さて、今回の事件を就活中の学生の側から見るとどのような教訓があるのでしょうか?

それは:

どんなカタチであれ一度試合に出場すれば、もうお前は選手のひとりだ。


という事です。つまり普通の学生は「欧米の投資銀行で出世するには先ず良い大学を出て、次にMBAを取得して就職戦線を勝ち抜いて投資銀行のトレーディング・デスクに潜り込む以外に無い」とあたまから決めてかかります。

でも現実はそうでないケースも沢山あるのです。

今回のクウェク・アドボリのケースでは彼はガーナ(*)からの留学生でした。留学先はノッチンガム大学です。投資銀行の定番であるオックスフォードやケンブリッジ出身ではない点に注目してください。しかも彼は学部卒でMBAは持っていません。

それでもたまたまデルタ・ワンのミドルオフィスに配置されたので、猫の手も借りたいような忙しさの中でフロントに抜擢されたのです。

つまり一度投資銀行の中に潜り込んでしまえば、その部署の忙しさの状況に応じて華麗な転身もアリということなのです。(僕はそういう例をゴマンと見ています。)


(*)当初の報道ではナイジェリアとされていましたが、正しくはガーナでした。訂正しておきます。