旧聞に属する事ですが、アマゾンが4モデルの電子書籍リーダー「キンドル」を発売しました。

これについてはいろいろなメディアが様々なコメントをすでに出しています。

でも投資家目線で見ると(それはチョッと違うな)と思うコメントも沢山出ています。

そこで今日は投資家目線で見た、僕なりのタブレット論を少しブチかましたいと思います。

先ず「アマゾンとアップルのどちらが勝つ?」という質問をする人が多いけど、これはもう結果が見えています。

両方とも「勝ち組」です。

なぜならやろうとしている事がぜんぜん違うからです。

アップルの場合、ユーザーが愛着を持てるような特別な製品をプレミアム価格で売るのが同社の企業戦略です。

ユーザーに熱烈支持されるためには、単にそのデバイスの性能が良いだけでなく、手に持ったときの質感、セクスィなデザイン、高級感溢れる仕上げ、、、それらの全てが「これがアップル製品なんだおぅ」という事を誇示していなければいけないのです。

それはちょうど、ポルシェと同じです。

ポルシェのくねくねしたセクスィ・ボディを見ただけで、別にクルマに詳しくないおじいちゃんだって「これはどえらいクルマやな」という事は直感出来るわけです。

つまりiPhoneやiPadはそういうオーラを出してなければいけないし、そうでなければ存在意義は無いのです。

それが証拠にスマートフォンの機能性(functionality)だけで論じるならば、大抵のことはアンドロイドに基づいたスマートフォンでも出来てしまいます。

アップルの製品の目指すところはユーザーをして「おれはこういう人間なんだ」という事を世間にシグナル(=誇示)出来るようなデバイスになるということです。

そういう商品がプレミアム価格で売られるのは当然だし、タタ・ナノが出てきたからといってポルシェが慌てて値下げを検討しないのと理屈としては同じです。

それではアマゾンの方はどうでしょうか?


アマゾンはタブレット端末を企画、販売するにあたって(おれたちはハードウエアを売っているのだ)という自覚は無いと思います。

むしろ「キンドル」はストアフロント(=店舗)だと考えている筈です。

これまでデジタル・メディアの消費は主にPCが中心でなされてきましたが、タブレット端末はストリーミング・ムービーやオンライン・マガジンなどの消費を掌の中に移行してしまったわけです。

するとメディアが消費される場所にアマゾンも急いでついてゆかねばならない、、、

だからタブレット端末でそれを実行しているだけです。

実際、Market Hackの姉妹ブログメディア、Tech Waveの湯川さんも記事にしている通り、タブレット端末のユーザーはPCのユーザーよりネットで買い物をする可能性が高いです。

アマゾンが「キンドル」をストアフロントだと認識している以上、そのデバイスは「トロイの木馬」に過ぎません。つまりユーザーのリビングルームやベッドルームに忍び込む事こそが最も大事な任務なのです。

「キンドル」はストアフロント、つまり店舗である以上、それ自体で採算が取れる必要はぜんぜんありません。なぜなら店舗への投資は先行投資だからです。

だから「キンドル・ファイヤー」は赤字で売っているという事を鬼の首を取ったように指摘するアナリストが居ますけど、そんなの当たり前です。むしろそうでなければアマゾンのビジネスモデルとの整合性が無いので間違った戦略なのです。

言い直すとアップルの場合、デバイスを売ることが生業なので、デバイスを売ることから適正なマージンを確保することは極めて重要です。

でもアマゾンは「量販店」なのだからアグレッシブな店舗戦略で他社を圧倒するという戦略は大胆でも何でもありません。それがいちばん手堅いやり方なのです。

なお、アマゾンがこのような一見、採算度外視のような戦略を採用するのは今回に限ったことではありません。いや、正確に言えば創業当初から「マスを目指す」というのは同社のDNAでした。だからこそブラジルの大きな河であるアマゾンを同社の社名に採用したのです。

いまアマゾンとアップルのPERを見るとアマゾンは95倍、アップルは15倍です。

この数字の極端な違いは何を意味するのでしょうか?

証券分析の細かい議論をさて置いて乱暴な言い方をすれば、アマゾンの投資家は「PERを見て投資していない」という事です。

一方、アップルのPERは常識的な範囲で取引されているのでバリュエーションという尺度は一定の効力を持っています。

すると財務戦略的にアップルがやってはいけないこととは、マージンをぶっ殺しながらアマゾンと一騎打ちすることです。

アマゾンの投資家が「利益なんて、関係ない」と思っている以上、クリスマス商戦でアマゾンが「キンドル・ファイヤー」をガンガン売って、赤字まるけになっても、それに嫌な顔をする投資家は居ないでしょう。
でもアップルの経営者が「タタ・ナノの出現に怖気づいてポルシェの値下げを決めました」と釈明したら、そのブランドの持つマジックは一瞬にして消えてしまうのです。