先週はEU首脳会談の結果、包括戦略が土壇場で決まり、市場はこれを好感しました。

当初悲観論も多かったのに、なぜ話し合いは上手くまとまったのでしょうか?

それは一言でいえばドイツがそれを強く欲したからです。

今回の交渉ではドイツのアンゲラ・メルケル首相が中心的な役割を果たしました。

先ず断っておくとメルケル首相は率先してリーダーを買って出るタイプの人ではありません。「請われたら、受けて立つ」タイプの人です。

だから今回も最初から出しゃばった真似はせず、じっくり機が熟すのを待ちました。

そして自分以外に誰も仕事の引受け手が無いことがハッキリしてから動き出しました。

メルケル首相は頑固に信念を貫く人です。とりわけ決定的瞬間では全く躊躇しません。

欧州金融安定ファシリティ(EFSF)の拡大に関する連邦議会での票決に際してメルケル首相は連立与党の同士たちに「ここで団結しないともう次の選挙ではあなたたちは勝てないし、私は面倒を見ない」と脅しました。


ドイツの憲法裁判所は「EFSFの拡大はドイツ憲法に照らして違憲では無い」という判断を下しました。

それもあって圧倒的多数でEFSFの拡大が可決したのです。

メルケル首相はギリシャに対しても厳しい要求を突きつけました。アテネで騒動が起きていても、もっとギリシャ政府から予算面での譲歩を引き出す事が必要だと悟るとまばたきひとつせず一層の予算カットを主張し、これを獲得しました。

さらにメルケル首相は10月27日早朝まで民間銀行団との交渉がもつれ込んだ時も自主的に50%のヘアカットを受け入れるよう要求し、若し銀行団がそれを呑まないなら「100%の損害、つまりデフォルトになっても私は知らない。そして貴方達が駄々をこねたからそうなったとマスコミにハッキリ言う」と最後通牒を言い渡しました。

このようにメルケル首相はかつての鋼鉄宰相ビスマルクも真っ青の、梃子でも動かぬ信念でギリシャ問題に取り組んでいるのです。

そのメルケル首相の持つ世界観は師と仰ぐヘルムート・コールの歴史観に強く影響を受けています。

コールの歴史観とはドイツはヨーロッパの統一にもっと尽力しなければいけないということです。

ドイツ人は通貨ユーロが嫌いです。でもワイマール時代に経験したような経済の混乱はもっと嫌いです。安定を求めるドイツ人の心にメルケル首相は訴えたわけです。

ドイツ人はギリシャ人などの怠け者は嫌いです。でもファシズムの忌まわしい過去はもっと嫌いです。だからナショナリズムに走ってしまったおぞましい過去の記憶をちょっと覚醒するだけでドイツ国民はすぐに自己中心的な態度を引っ込めるのです。

このような習性をメルケル首相は巧みに利用し、連邦議会や憲法裁判所からの圧倒的支持を背景に今回の包括戦略をまとめたというわけ。