世界を不幸にしたグローバリズムの正体
世界を不幸にしたグローバリズムの正体
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★★★☆☆(評者)広瀬隆雄

『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』は南米の債務危機やアジアの通貨危機の後に書かれた本です。

同書の英語のタイトルは『Globalization and its Discontents』です。このdiscontentsとは「不平、不満」の意味です。

グローバライゼーションの不平、不満の矛先はどこに向けられているかと言えば、それは国際通貨基金(IMF)に代表される、ワシントン・コンセンサスの考え方に向けられています。

同書が出る前の欧米の金融界における支配的な考え方は「通貨危機に陥る国は怠け者だからダメなのだ」ないしは「これらの国の後進性が問題だ」というものでした。

だから誰も国際通貨基金がそれらの国を救済する際にあてはめている処方箋が間違っているとは疑っていませんでした。

同書は救済される側の立場に立ってIMFの処方箋を押し付けられた国はどうなるか?ということを解説しています。

いままでIMFの言う事は神様のご神託と同じで、絶対厳守しなければいけないと信じてきた先進国の投資家の中にはこの本を読んで目から鱗が落ちた人も多かったです。(そういう自分もヘッジファンド仲間に薦められてこの本を読み、そのユニークな視点に感心しました。)

スティグリッツは世銀のチーフ・エコノミストを務めていたので救済の際にIMFが押し付ける処方箋がもたらすジレンマについて良く理解できる立場にありました。


それではそのジレンマとは何か?

ジレンマのひとつは規律ある財政を取るか?それとも経済成長を取るか?という二者択一の問題です。

国際通貨基金の処方箋は財政規律を優先しています。その結果、プロ・シクリカル(=景気循環的に引き起こされる不景気を、財政切り詰めで一層深刻なものにしてしまうこと)な効果をもたらしてしまうのです。

現在のギリシャ財政危機問題やイタリアの問題はまさしくこのプロ・シクリカルな効果という悪魔との戦いに他なりません。

だから言われるままに政府支出をどんなに切り詰めても、不景気による税収の激減で収支のターゲットは達成できるどころかどんどん遠のいてしまっているのです。

11月から欧州中央銀行総裁に就任したマリオ・ドラギはこのプロ・シクリカルの悪魔的効果の危険を良く理解しています。だから思い切りトリシェ前総裁をdisるカタチでいきなり利下げを打ち出したのです。

ギリシャやイタリアでの政局混迷の理由はこれらの国がいつまでも苦い薬を呑むことを拒んでいることにあるのではありません。(それは既に実行に移しているからです。)

むしろいつトロイカが、これ以上の財政切り詰めの約束が取り付けられない場合でもデフォルトを避けるために無条件で融資を継続すると腹をくくるかという点にかかっているのです。