今週に入って欧州の国債市場に微妙な変化が生じています。

それはこれまでギリシャやイタリアなどのいわゆる周辺国に限られてきた国債の利回り上昇の問題が一部の中核国へも伝染してきたということです。

具体的にはオランダやフィンランドの国債がそれです。

これらの中核国は財政規律面ではしっかりしています。

それなのになぜそれらの国債は売られているのでしょうか?

これは欧州全体の景気の急速な冷え込みが関係しています。

下は先日発表された欧州委員会の半年に一度の報告書から作成したグラフです。

まず2011年のGDP予想ですがドイツを除いて下方修正(赤)されている点に注目して下さい。
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さらに2012年のGDP予想に関してはドイツも前回の報告書よりGDP成長率が半減しています。その他の国々も惨憺たる状況です。
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その結果、ユーロ圏のGDP成長率は2011年が1.6%、2012年が0.6%という成長率になると欧州委員会は予想しています。
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ドイツは欧州全体のGDP成長率の38%程度を稼ぎ出しているわけですが、それでも来年にかけてはユーロ圏全体の成長鈍化に歩調を合わせる格好でドイツの成長も鈍化すると見られています。

それでは一体、何が鈍化の原因か?を示したのが次のグラフです。財政の切り詰めで公的部門の落ち込みもひどいですが、民間需要の落ち込みも影響しています。
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ドイツは欧州連合(EU)の条約を改正しEU機関による各国の財政規律の監視強化をする事で危機を切り抜けたいと願っています。これが欧州連合条約改正問題です。

しかしこれは各国の財政主権を侵害するということで反発も必至です。

またEU条約を改正するために欧州全域でレファレンダム(国民投票)を行う必要も出ます。

これは前回、国民投票で大荒れになった1992年の再来となる危険もあります。

また仮にドイツが願うように各国が財政を切り詰めたところで、それで問題が解決される保障はありません。
それはオランダやフィンランドのように財政規律がしっかりしている国の債券ですら売り叩かれていることを見れば自明です。

今回、イタリアがおかしくなったのは欧州全体の景気が急速に冷え込んだことが深く影響しています。

なぜなら経済成長が出せなくなると税収から国の借金を返済してゆく能力に疑いの目が向けられるからです。



投資家の信頼を取り戻すにあたってイタリアが切実にGDP成長を必要としているのはこのためです。

すると欧州中央銀行(ECB)は二つの政策を実行しなければいけません。

先ず利下げを継続するということです。

次にECBが市場から各国の国債を買い入れ、量的緩和政策をするということです。これが欧州中央銀行の役割見直し問題です。

ECBはこれまで米国のFRBや英国のイングランド銀行に比べてしっかり量的緩和政策を実施してきませんでした。
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それはECBによる国債の買い支えにドイツが強く反対しているからです。

なぜならそれは債務のマネタイゼーション、つまり実質的に輪転機を回して紙幣をどんどん刷ることにつながるからです。

ドイツはワイマール共和国時代にハイパー・インフレに見舞われた苦い記憶があります。
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だから中央銀行がインフレを誘発するような政策には大反対です。

しかし当時と現在ではずいぶん政治的な環境が違う点も考慮する必要があります。

当時ドイツは第一次世界大戦の後、賠償金問題で世界中からいじめられ、孤立していました。その窮地を脱する方便として、輪転機をフル回転してしまったのです。

現在は欧州各国の協力体制は良いです。

いや、歴史的にいまほどヨーロッパがひとつに団結した事は無いと言い切ることすらできるでしょう。

若しドイツがEUを離脱するなどの方法を取った場合、マルクは暴騰してドイツの輸出産業は大打撃を受けるでしょう。

そのシナリオ下ではドイツのGDP成長率は-2%程度になることも考えられます。

またドイツの金融機関が保有している他の欧州諸国の債券の急落でドイツの銀行が取り付け騒ぎを起こす危険もあります。