ジェイン・エア [DVD]
ジェイン・エア [DVD]
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★★★★★(評者)広瀬隆雄

観終わった後、深い余韻の残る作品です。

『ジェイン・エア』は英国の女流作家、シャーロット・ブロンテの代表作です。英紙テレグラフは「誰もが読むべき小説100選」の第7位に本作を挙げています。有名な小説だけにこれまでに何度も映画化、ないしTVドラマ化されてきました。

僕は『ジェイン・エア』ヲタを自称しており(笑)、第二次大戦以降に撮られた映画、TVドラマに関しては全て観ました。(但しインドや香港で制作されたものを除きます。)

結論としては今日紹介する2006年のBBCのTV映画版(10月28日にポニー・キャ二オンから日本発売されたばかりです)が最も素晴らしい出来栄えだと思います。

その理由は本作が原作の持つインパクトを一番良く伝えていると思うからです。

先ず役者さんが凄いです。

ジェインを演じるルース・ウィルソンは英国最古の演劇学校、ラムダ(LAMDA=London Academy of Music and Dramatic Art)を卒業した舞台俳優です。

主人公が経験するほのかな恋心、敗北感、宗教上の葛藤、絶望、甘美なリベンジ、揺らぐことの無い信念、他人に対する本当の思いやりなどを豊かでかつ緻密な表現力で余すところなく演じ切っています。

1970年版のスザンナ・ヨーク、1996年版のシャルロット・ゲンズブール、1997年のサマンサ・モートンなど実績ある女優さんが相次いでジェインを演じていますからその中で目立つのは並大抵のことではありませんが、やっぱりこの2006年版のルース・ウィルソンの演技はぶっちぎりに素晴らしく、完璧だと思います。

一方、ロチェスターを演じるトビー・スティーブンスもラムダや王立シェイクスピア劇団(Royal Shakespeare Company)で厳格な訓練を受けた俳優さんです。スティーブンスのお母さんは大英帝国勲位を受けた大女優、マギー・スミス(『ハリー・ポッター』に登場するミネルバ・マクゴナガル教授の役を演じた人)です。

ロチェスターの役柄は傲慢で、秘密の過去を持ち、道徳面でちょっと「?」マークの男という設定ですが、過去にロチェスターを演じたどの男優よりもセクシーで荒々しいロチェスター像を作り上げていると思います。

この二人の相性の良さは素晴らしいと思います。


次に脚本についてですが本作ではサンディ・ウェルチという人が書いています。彼女は同じくBBCが製作し高い評価を得た『ノース・アンド・サウス』を手掛けた人でもあります。

『ジェイン・エア』はゴシック小説の影響を強く受けており、幽霊、怪物、超自然現象、魔女といった要素が原作のあちこちに散りばめられており、それがまるで猟奇なB級ホラー映画を観るようなハラハラ感を醸し出しているわけです。ところが過去の大半の『ジェイン・エア』はこの面で無残なまでに失敗してきました。サンディの脚本は原作の持つダークな雰囲気やテンションを忠実に再現しています。

3時間半を飽きさせずに観客をグイグイ引っ張ってゆくことに成功しているのはこの脚本によるところが大きいと僕は思っています。

また登場人物のセリフについてもたいへん細やかな配慮が行き届いており、古典の品格を崩すことなく現代的な表現に置換されているあたりは小気味良くすらあります。

本作を見て優しい気持ちにならなければ、人間じゃありません。


(*)なおアマゾンのカスタマー・レビューを見ると日本版は原作240分が204分にカットされているそうです。