英国のニック・クレッグ副首相(自民党)がBBC1チャンネルのアンドリュー・マー・ショウに出演し、「イギリスがまるで原住民のように世界の動きから取り残されるのは残念だ」という意味の発言をしました。

クレッグ副首相はEUのやっていることの全てが正しいとは限らないことを認めながら、「問題はイギリスがヨーロッパからも米国からも完全にシカトされていることだ」と嘆きました。

このクレッグ発言に対してはイギリス国内から大きな批判の声が上がっています。

保守党のマーク・プリッチャードは「イギリスがただ遠吠えするブルドッグだと揶揄する声があるが、ブリュッセルのプードルになるよりブルドッグで居た方がマシだ」と反発しました。

僕の考えでは今回の英国のEUからの離反がイギリス経済に及ぼす実害は殆ど無いと思います。

しかしイギリスの威信は大きく傷つきました。

キャメロン首相が「しっしっ!」とサルコジ首相、メルケル首相から追い払われた同じ日、ゆくゆく通貨ユーロを採用したいと考えているポーランドはEUを絶賛し、「パリ・ベルリン・ワルシャワ枢軸ラインを打ち立てよう!」とぶち上げたのです。

ポーランドは今ヨーロッパの国々の中で最もファンダメンタルズが良いし、内需は旺盛だし、果てはシェールガスも出るという調子で経済的には絶好調です。新しい機関車としてドイツと連結しようという気運が最高潮に盛り上がっているのです。

さて、話をイギリスに戻すと今回のニック・クレッグの発言は保守党・自民党の連立政権の絆が緩んでくるという意味ではチョッと不安です。

リーマン・ショック後、イギリスはアメリカよりもっと大胆な金融緩和をしましたし、イングランド銀行のバランスシートの拡張も半端では無かったです。
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このような放埓とも言える財政政策にもかかわらず、市場が英国の経済運営に信頼を置いている理由はキャメロン-クレッグ-オズボーンという若いリーダーがガッチリと財政の手綱さばきをするという期待を持っているからです。

そのキャメロンとクレッグの間に亀裂が入ると総選挙の時に市場を包んだ宙吊り議会の恐怖が再びイギリスを包むかも知れません。

ニック・クレッグはそんな事態を引き起こすほど馬鹿ではないので、この内輪揉めをエスカレートされることはしないと思いますが、FXをやっている人はイギリスのアキレス腱は外交ではなく内政、つまり連立政権の維持にあることぐらい気付いて欲しいと思います。

さて、今回の英国の態度がシティ(ロンドンの金融街)の競争力にどういう影響力を及ぼすかという問題ですけど、僕の考えでは全く関係ないと思います。

シティはユーロがどんどん経済圏としての体裁を整えてゆく過程でも、共通通貨が導入された後でもヨーロッパ中の人材や資本を惹き付けるのに全く苦労しませんでした。
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これはどうしてかといえばお金は自由な方に流れるからです。


イギリスの議会は金融のイノベーションに対して世界で最も寛容でした。だからこそ高級住宅街、メイフェアが「マイフェアレディ」の舞台からミニ・ゴードン・ゲッコー達の巣窟へと変貌を遂げたのです。
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もちろん、シティは今後、ある程度活気を失うだろうし、地盤沈下は避けられないと思います。

でもそれは負債やデリバティブに対する世界的なアレルギーがそれらのビジネスにとって逆風の経営環境をもたらすからであって、シティのビジネスがフランクフルトなどに奪われるという事とは違うような気がするのです。

足元のトレンドとしてイギリスで営業する外国銀行(赤)の資産はまた戻りつつあります。
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またイギリス(左端)の金融サービス貿易収支は圧倒的に黒字です。これはシティの人材力が他よりも優っている事を示す端的なデータ・ポイントだと言えるでしょう。
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しかしそのようなシティの飛躍は「ゆるゆるの行政」による、「カウボーイ資本主義」の奨励によるところが大きかったことも否めません。

シティがイノベーションに大きく依存している一つの例が下のグラフです。
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しかしデリバティブ市場は複雑骨折くらいのダメージを今回受けたので、当分はその傷をじっくり癒すことが必要です。
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若しシティの地位が今後大きく後退するのであれば、それは1.誤った規制強化などの立法、行政の問題か、2.シティそのもののアニマル・スピリットの喪失、のどちらかが原因になると思います。だからブルドッグかプードルかという議論は関係ないのです。

なおアニマル・スピリットといえば往時のシティ・オブ・ロンドンがどれだけ勢いに満ちていたかを偲ばせる、お宝動画を添付しておきます。ご笑覧あれ。