世界で最もETF(エクスチェンジ・トレーデッド・ファンズ)が活発に取引されている国は米国です。

2010年の時点で8,910億ドルの残高があります。
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これに比べると日本はETFのブームに乗り遅れている観があります。

活発に取引されているETFは普通指数との乖離が少なく、さらに取引コストも比較的低いため投資家にとって利用価値の高い商品です。

しかし出来高が薄いETFは指数との乖離も大きくなってしまい、折角の商品性が損なわれてしまいます。

そこで今日はなぜ市場によってETFが活発に取引されたり、そうでなかったりするのかについて考えてみます。

そのためには先ずETFの仕組みの説明から始める必要があります。

ETFとは上場型の投資信託です。普通の株とおなじようにニューヨーク市場などの株式市場で取引されます。

アメリカで最初に開発されたETFは「スパイダー」の愛称で親しまれているSPDR S&P500 デポジタリー・レシート(ティッカー:SPY)でした。

SPYはアメリカン取引所商品企画部のネイザン・モーストという人が開発しました。

ネイザンはもともと商品取引などの経験を持つ人です。

商品取引ではウエアハウス・レシート(倉庫の引換券)というものがあります。

これは倉庫に貯蔵されている大豆などの商品を業者同士が取引するたびにいちいちA社の倉庫からB社の倉庫に移管していたのでは、手間ばかりかかって効率が上がらないから、「この分は俺のだよ」というしるしの荷札だけをやりとりしようという取り決めです。

つまり現物をいちいちトラックで運ばず、キャッシュと荷札の交換だけで済ませてしまうのです。

そして最後に本当に現引きして大豆を飼料加工業者などに引き渡す際のみ、倉庫で荷札を提示して、現物をトラックに積んで搬出するのです。

これがウエアハウス・レシートの考え方です。

さて、「荷札だけをやりとりして、現物の大豆は倉庫から動かさない」というやり方は大変合理的なのですが、それをやると困る人も出てきます。それはモノを動かす事で生計を立てている人たちです。例えばトラックの運転手がこれに相当します。

実はETFとウォール街の関係も全くこれと同じで、ETFで荷札のやりとりだけで済ませるようになると、証券会社のセールスマンは株の売買手数料が減るリスクを負うのです。

さらに投資信託の販売手数料は証券会社にとってオイシイ商売なので、投信がETFに替わると困ってしまうのです。

またETFは投信のファンドマネージャーの仕事も奪ってしまいます。


いまETFのファンドマネージャーは倉庫の管理人にたとえることが出来ます。その倉庫の管理人は「大豆は何キロ、小麦は何キロ、とうもろこしは何キロ、、、そういう比率を崩してはいけない」という指示だけを受けているとします。

するとトラックが来て、「小麦だけを持ち込みたいのだけど」とトラックの運転手に言われてもそれを許すわけにはゆきません。

「ウチはね、大豆は何キロ、小麦は何キロ、とうもろこしは何キロ、、、そういう割合でしか商品を受けてはいけないと社長から指示されているんだ。だから小麦を持ち込みたいのなら、大豆やとうもろこしも比率を揃えて持ってきてよ!」そういう会話になるわけです。

例えばSPYの場合、「大豆は何キロ、小麦は何キロ、、、」に相当するのがS&P500指数そのものの銘柄構成比率になるのです。これをETFの業界の専門用語で言えばポートフォリオ・コンポジション・ファイルということになります。

つまりETFは必ず何かの指数を基にした銘柄構成になっているし、そこにファンドマネージャーの主観とか腕前の巧拙とかが入る余地は一切ないのです。

いや、有り体に言えばETFのファンドマネージャーは倉庫の管理人のおじさんそのものです。だから荷を受け入れ、保管品の搬出を許可する以外の権限は一切与えられていないのです。

自分でポートフォリオを考え、証券会社に注文を発注することも出来なくなるのであればファンドマネージャーがこれまで享受してきた数々の役得(例えば海外へのリサーチ出張)にもありつけなくなります。

ファンドマネージャーの多くがETFを目の敵にするのはこのためです。

それでは一体、誰がETFと指数の乖離を調整するのか?となると、それは指定参加者(AP)と呼ばれる機関投資家の役目になります。多くの場合、それはヘッジファンドです。

かれらは場で付いているETFの株価と指数の値段が乖離したと見るや、目にも止まらない速さで鞘取り(=アービトラージ)の注文を入れます。つまり割高になっているものを売り、割安になっているものを買うのです。

ETFはこのように指数との乖離の是正を市場参加者に任せる仕組みになっているのです。これはある種のアウトソースであると考える事が出来ます。言い換えればポートフォリオ・メンテナンスの費用を「外部化」しているわけです。

このようにETFの乖離の是正を市場参加者に任せるためにはそもそも市場におけるそのような鞘取り業者のコミュニティが高度に発達している必要があります。それがなければETFの乖離は放置されたままになってしまうのです。