先週金曜日の引け後、スタンダード&プアーズがヨーロッパの9カ国の長期ソブリン格付けを引き下げました。

これでドイツのメルケル首相は仕事がしやすくなったと思います。

ドイツのねらいは国内製造業の生産水準を落とさず、雇用も減らさないという点にあります。

ドイツの生産力はドイツ国内の消費市場よりも遥かに大きいです。

すると生産を落とさず、雇用を守ろうとすれば輸出に頑張ってもらう以外に無いのです。

そのためにはユーロ安を演出する必要があります。

従って最近のユーロの急落はドイツにとってみれば神風が吹いたのと同じです。

去年の12月にイギリスを除く欧州連合加盟国は全て、財政統合にむけて努力する事に支持を表明しました。

財政統合とは具体的にはおのおのの国が自ら緊縮財政の目標を設定し、それに向けて努力するとともに、若し目標を達成できなかった場合は自動的な予算一律カットなどの条項を設ける事で規律を守るという自主宣誓を指します。

「われわれは正々堂々と戦う事を誓います」というスポーツの選手宣誓同様、このデクラレーション(宣言)はポーズに過ぎません。

しかし欧州各国の不始末の尻拭いをして回るドイツの立場からすれば、ポーズにせよこのような宣誓に各国がサインしなければ国内的に支持を得にくいのです。

財政統合の宣誓が空約束になるか、それとも実のあるものになるかは各国のヤル気にかかっています。



そのヤル気にさせるひとつの要因が格付け機関によるダウングレードで借金の借り換えコストが跳ね上がる事なのです。

つまり各国政府は市場をなだめる意味でも財政統合にコミットメントした素振りを示さなければならないというわけ。

いま欧州各国が財政を切り詰めるとそれは一層不景気を招きます。そこで景気テコ入れのための役回りは欧州中央銀行(ECB)に回ってきます。最近、ECBは利下げしていますし、LTRO(3年物資金供給オペ)を実施するなどして実質的な量的緩和政策を打ち出しています。

これに対してドイツが何も文句を言わないのは「良いおまわりさん」と「悪いおまわりさん」の演じ分けをドイツとECBがすることによって財政規律を取り戻すことと景気対策の両方を手に入れる作戦に両者の間で暗黙の了解が成立したからに他なりません。

ドイツの政権は産業界の言い分に注意深く耳を傾けています。

それではドイツ産業界の言い分とは何か?といえばそれは「われわれは雇用を守り、競争力を維持するためには昇給を見送っても構わない。だけどドイツの製造業の国際競争力を削ぐような真似はドイツ政府にはゼッタイして欲しくない」という要求です。

この要請を受けてメルケル政権はユーロ安を演出し、完璧な着地を実現しています。

今年はある時点からドイツの輸出株を再び仕込む必要がありそうです。BMWやフォルクスワーゲンなどの銘柄のウォッチを怠らないようにしたいと思います。

さて、円高の日本はアメリカやドイツに嵌められています。日本政府は手玉に取られています。でもそういう自覚の無い人たちに何を言ってもはじまりませんけど。