Facebookの新規株式公開申請書(これをS-1といいます)が何時米国証券取引委員会に提出されてもおかしくない時期に来ています。

そこで大事な問題は:

Facebookは1%の人たちのためのIPOを目指すのか、それとも残りの99%の人たちを含めるIPOをするのか?


という事です。

これはフェイスブックの将来にとっても重要な含蓄をもちますが、それ以上にネット業界に棲む人たちにとって甚大な影響の出る問題です。

僕のドタ勘ではFacebookは残りの99%の人々をも含めるような、民主的なIPOを目指すと思います。

それでは一体、1%の人たちのためのIPOとは何を指すのでしょうか?

説明します。

1%の人たちのためのIPOとは、つまり現在通常行われている、ブックビルディング方式を指します。

ブックビルディング方式は需要積み上げ型のIPOです。そこでは先ず安定株主になる大手機関投資家から大口注文を獲得することを最も優先します。この場合の大手機関投資家とはフィデリティ、キャピタル、Tロウ・プライス、ブラックロック、インベスコなどの投信投資顧問会社になります。

彼らは「テンパーセンター(10%er)」と呼ばれる、今回売出し株数の10%に相当するアロケーション(=株の割り当て)を希望します。

普通、主幹事証券はどんなに大きな機関投資家に対しても今回売出し株数の10%を超える割り当てはしません。

このような中核的機関投資家を3社から5社呼び入れて、後は徐々に少ない株数を他の主要機関投資家に分配してゆくわけです。

すると誰を中核的機関投資家としてコアに据えるか?という事を巡って主幹事証券が大きな発言力を持つことが容易に想像できると思います。

つまりブックビルディング方式を採用した瞬間から発行体、つまりIPOする企業は主幹事証券に株式公開業務の下駄を預けてしまうことを意味するのです。

大半の企業はそれでもブックビルディング方式を採用します。なぜなら:

1.そもそも自分達の会社の存在を一般大衆は知らない
2.我々のやっている仕事を理解している人は少ない
3.IPOに必要な金額を上手く調達できるか自信が無い


などの事情があるからです。

主幹事証券はIPOを売って歩く際にロードショウと呼ばれる会社説明会をニューヨーク、ロンドン、サンフランシスコ、香港などの金融センターで開催します。

その会社の成長ストーリーを投資家に説いて回ることから、エヴァンジェリスティック・セールス(福音的営業)と呼ばれることもあります。つまり伝道師の如く、その企業のメリットを説明する必要があるのです。

ブックビルディング方式は特権階級的な、ごく一握りの人たちだけに有利な引受形態です。そこでは投資銀行が「飢餓感を演出する」ことに成否の全てが掛っています。

その企業のやっている業務が難解で、投資家に分かりにくいほど飢餓感の演出には手の込んだ事前の準備(=投資カンファレンスの実施など)が必要で、主幹事証券会社の腕の見せ所になります。

例えばバイオテクノロジーならJPモルガン、石油サービスならシティグループ、半導体ならバークレイズ・キャピタルという風に投資銀行によって得意分野が出来てくるわけです。

さて、これとは逆に、皆が知っていて、わかりやすいビジネスで、黙っていても「あなたの会社の株を買いたい」と言う希望者が殺到するようなビジネスなら、どうでしょうか?


フェイスブックはその典型だと思います。

つまり今更、モルガンスタンレーのセールスマンに「Facebookとはこういうサービスでして、、、」と営業されるまでもなく、ユーザーの方が良く知っているわけです。

その場合、仲介者としての投資銀行の存在意義は無いに等しいです。

ダッチオークション方式はFacebookのような広くユーザーに理解されているブランドやサービスに適したIPO形態です。

そこでは無数の投資家が思い思いに自分の言い値を登録し、高い値段を付けた人から注文の大小にかかわらず株式を割り当てることが行われます。そうやって自然に売り切れになったところで入札はオシマイになるわけです。

「需要をきっちり満たす価格はどの水準なのか?」


この売出し値段の設定はとても難しいです。

ブックビルディング方式は売出し値段の設定を主幹事証券会社に一任するやり方です。主幹事証券は独断と偏見でその値段を決めて良いわけですが、通常は売れ残りが出るといけないのでアンダー・プライシング、つまりわざと最多需要帯より低い水準で値決めをしてしまいます。

往々にしてIPOの値決め後、取引開始されると株価がぶっ飛ぶのはこのためです。

それは発行企業の立場からすれば(もっと高い値段でウチの株を売り出すことが出来たのに、損した)ということになるわけです。

ダッチオークション方式ではそのようなミスマッチはありません。なぜなら入札という手法自体に価格発見メカニズム(price-finding mechanism)が組み込まれているからです。

ダッチオークション方式はごく一部の、超有名な企業だけが採用できる売出し形態です。アメリカでは過去にグーグル(ティッカー:GOOG)がこの方式でIPOしました。

さて、Facebookはとてもプライドの高い企業です。

だからグーグルがダッチオークション方式という、セレブなやり方でIPOしたのに、「Facebookは古色蒼然たるブックビルディング方式だった」ということになるとFacebookの威信に傷が付くわけです。

僕が「あの会社はブックビルディング方式は採用しない」と感じる理由はここにあります。

さて、Facebookがダッチオークション方式でIPOした場合、個人投資家がそのIPOにありつけるチャンスはブックビルディング方式よりも格段に大きくなります。なぜなら高い言い値を示しさえすれば、株が貰えるからです。

これは素っ高値でFacebookのIPOが値決めされてしまうリスクを伴います。

「フェイスブックが値決めされたところがSNSブームのピークだった」


そういう事にならないように祈るほかありません。