FacebookのIPOはソーシャル関連企業がイノセンスを失う、ひとつの時代の区切りになります。

Innocenceとは無邪気、天真爛漫、純潔、貞節という意味です。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグがこれまでなるべく株式の公開を先延ばしにしてきた理由は上場企業には上場企業の責任があり、株主への配慮とか情報公開とか、いろいろ煩わしいことが生じるためです。

今回、しぶしぶ株式を公開する決断に至った最大の理由は株主数が500を超えたため、米国の証券法で株式公開をする必要が出たからです。

ベンチャー企業が株式を公開するとこれまでとは格段に違う安いコストで、多額の資金を市場から調達できるようになります。

これは株式を公開した企業に強烈な武器を提供することになります。なぜならそれは優秀な人材を金に糸目を付けずリクルートできることを意味するし、新しいマーケティング展開や国際展開を可能にする場合が多いからです。株式公開はその企業のブランドネームを実業界で確立するきっかけにもなります。

それは未だ株式公開に漕ぎ着けていない競合他社の立場からすると本当に怖い瞬間でもあります。

1996年に株式公開をしたヤフーのジェリー・ヤンは当時を振り返ってこう言っています。

We didn’t want to risk having the other guys go public while we didn’t.
自分達より前に他社が株式公開してしまうリスクを兎に角、冒したくなかった。


彼はこう続けます。

Not only would they have the extra cash, but they could also use the stock as currency to acquire other companies. To have Excite and Lycos out there consolidating the market while we couldn’t would’ve been a huge mistake.
彼らは株式公開するとキャッシュを手にするだけでなく、上場されている株式を株式交換することで他社を買収しやすくなる。エキサイトやライコスが我々より先に上場し、M&Aでどんどん自分の地位を固めているとき若しヤフーがそれに対抗できないとしたら、これは経営戦略上のとんでもないミスだ。

(出典:The Internet Bubble)

つまりFacebookのIPOは言ってみればコードの戦いからマネーの戦いへとSNSのビジネスの主戦場が移ることを意味するのです。


『ロード・オブ・ザ・リング』で世界を滅ぼす魔力を秘めた「ひとつの指輪」を指にはめた瞬間にその指輪の不思議な魔力の虜になってしまい善人でも人が変わったように邪悪になってしまう様子が出てきますが、株式公開の持つ魔力にも同様のダークなちからがあるのです。

問題はそのような邪悪なパワーをも持ちうる新規上場された企業に限って、株式市場の投資家はその魅力に完全に参ってしまうのが常だという点です。これはなにも株に限らず、人間の本性です。人間は新しい出会い、未知のもの、自分の手に入らないものを過大評価し、憧憬を抱く傾向があります。

上の動画はロシアの文豪、アレクサンドル・プーシキンの韻文小説、「エヴゲーニイ・オネーギン」を1999年に映画した『Onegin』のシーンです。

主人公のエヴゲーニイ・オネーギン(レイフ・ファインズ)は遊び人で自分勝手な男ですが、こともあろうに聡明で美しく、しかも高潔なタチヤーナ・ラーリナ(リヴ・タイラー)はそんな彼に一目惚れしてしまいます。それが災いしてこの小説の登場人物は悉く高い代償を払う羽目に陥るのです。

フェイスブックの上場で全てを燃やし尽くす新しい火遊びのゲームがいまはじまろうとしているのです。