フレッド・ウィルソンはMarket Hackでもしばしば紹介している米国のベンチャー・キャピタリストで、いまアメリカで最も尊敬されているVCのひとりだと言って差し支えないでしょう。

フレッド・ウィルソンの会社、ユニオン・スクエア・ベンチャーズはTwitter、Zynga、Tumblr、Foursquareなどへの投資実績を誇っています。

またフレッド・ウィルソンは『AVC.com』というブログを書いており、このブログは米国のハイテク・ベンチャー・シーンに興味のある人は必見です。

そのフレッド・ウィルソンはこれまでにも「MBA Mondays」というブログ上での講義シリーズを毎週月曜日に執筆してきました。

ウィルソンは今回、実際に受講生の前で『MBA Mondays Live』という講義をライブストリームする試みを始めました。

その第一回目の録画はここで見ることが出来ます。

なおこの講義で議論されていることは会社をはじめるにあたってどのように中核社員にストック・オプションを付与してゆくか?という極めて専門的な議論ですので:

1.これから自分で会社を始めようとする自前資金の持ち合わせがある創業者
2.創業時に創業者と力を合わせて会社を立ち上げる、創業メンバー


という2種類の、最も志の高い人達のみに有益な議論でしょう。

その意味で、単に「自分はコードが書けるのでシリコンバレーに行ってどこかのベンチャーに潜り込みたい」とか考えているフツーの人が視聴しても退屈だろうし、だいいちチンプンカンプンだと思います。

でも実務家の立場から、起業の際の創業者持ち株比率の希釈化に関するコアな問題について具体的な行動の指針を提供しているという点で、ハーバード・ビジネス・スクールなどのMBAコースで扱う、ジェネリックな素材とはそもそも比較にすらならないチョーお宝映像です。

なお、英語を聞きとるのが苦しい人も居ると思うので、彼の説明していることの要点をレジュメにしておきます:


講義のテーマ: 創業者持ち株比率の希釈化(ダイリューション)の問題について

【出発点の問題意識】
ベンチャー企業の社員全員がある時点で会社の持ち株の恩恵に与ることは重要だ。しかし何も考えないで自社株を社員や外部投資家に渡すときはじっくり考えながら行動を起こす必要がある。

【創業者が最初に認識すべき事実】
創業者本人が株式の希釈化の不利益の影響を他の誰よりも受ける。

<実例>
第一段階:或る個人が自己資金で会社を始めるときはそのタネ金が会社のエクイティ(株式資本)の全てである。従って持ち株比率は:

創業者 100%

→ 創業者の持ち株は一般に「普通株」であることが殆どであり、形式上の(nominal=見做し)価値(value)により税金計算基礎を確立する。

第二段階:友人に声を掛けて創業に参画して貰う場合、創業者は上記の形式上の価値と同じ値段で株式を彼らに賦与することが出来る。この場合、株を渡す相手全員の合計が5%を超えることはまずない。

創業者 95%
創業メンバー社員 5%

第三段階:初めて外部資金が入るケースを考えてみよう。ベンチャー・キャピタルは普通、発行済み株式数の10%を要求する。すると自分を含めた他の全てのメンバーの持ち株比率が(当初の持ち株比率)×0.9というカタチで下がってしまうことに注意したい。なおこれより先は他人に株を与えるたびに価値のあるものを他人に譲渡することになるので税金面での考察の必要が発生する。会社がまだスタートしたばかりで、全く無価値のときは他人に自社株を譲渡しても税法上、頭の痛い問題にはならないが、会社の価値が上昇しはじめたらこのことをよく考える必要がある。

創業者 85.5%
創業メンバー社員 4.5%
VC 10%

第四段階:次にベンチャー・キャピタルが2回目のラウンドで追加の出資をした場合の各人の持ち株比率がどうなるか見ることにしよう。(=なおフレッド・ウィルソンはビデオの中で説明の順番を間違い、従業員のためのオプション・プールの話に一足飛びに進んでしまいます。後で話の順序を間違えたことに気付き、各人の比率の計算をし直します。ここでは説明をスッキリするためにウィルソンがもともと意図した正しい順序で持ち株比率の推移を示します。)

創業者  76.95%
創業メンバー社員 4.05% 
VC 20% 

第五段階:いよいよ従業員オプション・プールを設置する。最後に来た新しい出資者が加わる毎に、他のメンツの持ち株比率がそれぞれ上の式と同様に(持ち株比率) × 0.9というカタチで希釈化されてゆく。

創業者 69.255%
創業メンバー社員 3.645%
VC 18%
従業員オプション・プール 10%

以上の流れをグラフで示すとこうなる。
1

創業者の持ち株比率(青)は時間が経つにつれてだんだん減っている(=希釈化=dilution)していることがわかる。

その一方で新しい「当事者」がだんだん増えて来る様子もわかる。つまり会社を大きくするということはそういう事なのだ。

さて、(創業者の持ち株比率がだんだん希釈化するのじゃ、つまらないな)と皆さんは思うかもしれない。その比率低下を補って余りある見返りが、それぞれのラウンドにおける自社の企業価値(バリュエーション)の上昇なのだ。

次に税金面での話をすると、株を無償賦与(=グラント)すると、それは税法上、すぐに課税対象になる。その場合、(個人のケースによっても違うが)40%程度の税金を払う羽目になる。

未だ上場すらされていない会社の株を貰って、すぐに納税義務が出るのは平社員としては資金繰りが辛い。

そこですぐに納税義務が発生してしまう株の無償賦与という方法ではなく、納税義務が先に延ばせるストック・オプションという方法が考案された。

ストック・オプションでは従業員がそれを行使(=エクササイズ)しなければ、何も納税義務は発生しない。

若し行使価格1ドルで発行されたストック・オプションが20ドルの価値を持てば行使時に19ドルのキャピタルゲインになる。ストック・オプションをエクササイズする時までに流通市場が出来ていれば、平社員はその株を流通市場で売る事で税金を捻出することができる。

権利発生日(ベスティング)を設定する必要がある。創業者もVCなど外部から資金を得る際、自らベスティングに縛られる必要がある。

普通、ベスティングは1年に25%というペースで4年に渡って実施される。

昔は重役会がストック・オプションを行使する時々のフェア・バリューを決めていた。その後、米国の内国歳入庁(IRS)が409Aというルールを導入した。

普通、VCが投資に際して企業を評価するのと、409Aコンサルタントが評価する企業価値とでは大きな乖離がある。VCの方が遥かに高い評価をつけることが多い。

409Aコンサルタントが決めるストック・オプションのストライク・プライスが外部のVCなどから受ける評価より低くなる場合、従業員の目からすればそれだけ仕入れコストを安くストック・オプションを貰えることになるので好都合である。

最近ではリストリクテッド・ストック・ユニットという「将来、ストック・オプションを与える約束」を従業員に与える企業もある。フェイスブックやツイッターのようにバリュエーションがものすごく大きくなり、409Aバリュエーションからすると未公開株を貰うことのメリットが少なく、しかもIPOを未だ実施できない企業がこの方法を良く使う。

【中核社員へのストック・オプションでの報い方】
会社が大きくなるにつれて「発行済み株式数の何%を新しい従業員や外部のVCに与えるか?」というパーセンテージからの発想を止める事。そしてダラー・バリュー、つまり金額ベースで物事を考えるクセをつけなければいけない。

CEOは自分の会社の価値に関して自分のソロバンを持っている必要がある。

たとえば今、自分の会社の価値を自分では2,500万ドルだと思っているとしよう。

次に会社の中核社員にストック・オプションを付与する際には次のようなマルチプルを考えたい。

CTOやCROなどのシニア・マネージメント: 0.5倍から1.0倍
シニア・エンジニアなど: 0.25倍から0.5倍
シニア・セールス: 0.1倍から0.25倍

若しCFOが25万ドルのサラリーを要求するのであれば

250,000 × 0.75(中値) = 187,500

となる。

いま発行済み株式数が1,000万株なら一株当りバリューは$2.50になる

すると187,500ドルの価値の自社株を渡そうとすると7万5,000株を与える必要がある。

ポイントとしては会社が若いうちに、早い段階にエクイティーを従業員に与える事。なぜならバリュエーションが高くなるとストック・オプションを付与するのが難しくなるから。

【良い社員に長く会社にとどまってもらうために】
リテンション・グランツと呼ばれる株式の付与を2年後から始める事。採用時のストック・オプション賦与の半額をリテンション・グランツの目安にせよ。