一昨日、スペインのモントロ財務相がラジオで「もう金利が高くなり過ぎて、スペイン政府は市場からお金を借りられない。マーケットから締め出されちゃった」という事実上の降参宣言をしました。

欧米の市場参加者はこのニュースを見て「ヒョエーッ!」と肝を潰したわけですが、投資家の心配とはうらはらに、マーケットは堅調でした。

一体、なぜマーケットは下がらなかったのでしょうか?

それはモントロ財務相が、「スペイン政府単独ではスペインの銀行を支える事はムリ。だから、アンタやってよ!」と下駄を欧州連合(EU)に預けたからです。

つまりスペインは自らスーパーヒーロー失格を認め、アッサリとEUにスポットライトを譲ったのです。

これを読んでいる皆さんは(どっちが救ったって、同じじゃないか?)と思うかも知れません。でもスペイン政府がスペインの銀行救済に飛び込むのと、EUがスペインの銀行救済に馳せ参じるのでは、その勝算(Odds)や費用(Cost)が全然違うのです。

ひとことでいうと、EUがやった方が成功の確率は遥かに高い。

それはどうしてか?


その理由はEUの資金調達コストの方がスペインのそれより遥かに低いからです。

またEUの方が大きな資金で救済に乗り出すことが出来ます。

またEUが直接スペインの銀行救済に乗り出せば、それは実質的に財政統合への第一歩を踏み出すことを意味し、市場に対して強いメッセージを送ることになるからです。

言い換えればEUが財政的に「事実婚状態」になるということです。

当然、「それはずるい!」という声が、EUのメンバーの中から上がって来ると思います。「EU憲法違反だ!」という指摘も出るでしょう。

でも住専状態になっているスペインの中小金融機関の面倒を見る任務からスペイン政府が放免されると、スペインの財政負担は急に減り、スペイン国債は急騰すると考えられます。なぜならスペインはもともと国家負債がGDPに占める割合が66%と、先進国の中でもかなり低い方だからです。
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さらにスペインは国際通貨基金(IMF)からの救済を受けなくて済む可能性が高まります。それは財政切り詰め政策がこれ以上、きついものにならないことを意味します。

スペインは単に「スーパーヒーローになれる人(=EU)が、スーパーヒーローをやってよ」と開き直っているに過ぎないのです。

逆に言えば、スペイン政府がスペインの銀行の救済を諦めれば、EUがステップインせざるを得ないという、冷徹な読みがあるわけです。なぜならばスペインの銀行から取り付け騒ぎで預金がどんどんおろされはじめたら、ドイツやフランスの銀行にも不安が走るからです。

今回のユーロ危機は一般には単に南欧諸国の政府の放埓な財政政策が原因だと考える投資家が多いですが、その考えは単純過ぎます。

実際は共通通貨ユーロが導入された直後から、域内の大手銀行を中心にクロスボーダーでの貸付がどんどん増え、EUメンバー国の予算プロセスや税制、成長戦略などが整備される前に一足飛びにバンキング・サービスだけが国際化したことに問題の一端があります。

その意味で今回のユーロ危機はたんなる財政危機ではなく、バンキング・クライシスなのです。

ここへきて欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁が急にバンキング・ユニオン(銀行同盟)を口にし始め、ドイツのメルケル首相もドイツなりのバンキング・ユニオン案(=ECBのそれより控え目です)を練り始めた背景には、上に書いたような「スペイン政府がケツをまくるリスク」があるからです。