こんにちの世界市場を見まわした場合、稀に見るユニークな局面に我々は差し掛かっていると感じます。

それは欧州中央銀行(ECB)も利下げ出来るし、中国人民銀行も利下げ出来るし、米国連邦制度準備理事会(FRB)も追加的緩和をすることが出来る立場にあるという事です。

世界的な金融緩和、、、これが今の相場のテーマです。

なぜ世界的な金融緩和が相場のテーマになってしまったかというと、それは世界の景気がつんのめっているからです。

6月7日に中国人民銀行が政策金利を引き下げました。これは「中・欧・米の三極の中央銀行が緩和出来るポジションにある」という僕の自説を証明したことになりました。

でも、、、相場は騰がっていない。

「えーっ、なんで?」

後講釈はいろいろ出来ると思います。

7日に関しては中国人民銀行の利下げのニュースが出た後、米国のバーナンキ議長がQE3期待を冷やすようなスピーチをしたことと、スペインの格付けがフィッチによって引き下げられた事で熱が冷めたということでしょう。

みんなが予期していることを、みんなが予期しているタイミングで、無造作に実行しても、市場関係者はそれを(織り込み済み)として、評価してくれません。


相手がぜんぜん予期していない時に、平手打ちを喰らわせることで、誰がボスであるかを知らしめる、、、これが中央銀行にとって、とても重要な駆け引き、ないしは「呼吸」になります。

これをアメリカの金融関係者はストリップに喩えます。

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ストリップというのは踊り子が服を脱ぐだけの話しですから、着地点は始めからわかりきっている、、、そのわかりきっていることをメリハリ付けずにやっていたのでは、ぜんぜん面白くないわけです。

僕が「中央銀行ストリッパー説」に言及すると、すぐ喜ぶ人が居る。それはこのMarket HackやTeckwave、さらにBlogosなどを仕掛けた、田端信太郎さんです。

「広瀬さん、お好きですねえ、ストリッパーに喩えるのが」

お言葉ですが、FRBの金融政策のさじ加減を形容するのに、ストリップの比喩を用いるのは僕ではありません。

この比喩を僕が最初に聞いたのは、FRBの高官からです。彼は或るパワフルな地区連銀の元総裁でした。

その時に彼が口を酸っぱくして強調していたことは、中央銀行のpowerlessness、つまり「無力さ」ということです。

米国の中央銀行が出来る事といえば、イールドカーブのいちばんショートエンドを弄ることだけであり、その短期金利の調節で、ロングエンド、つまり長期金利(=それは主に市場の期待によって自然に決まって来るのですが)を自由自在に操ってゆかねばならない、、、これはマーケットとの心理戦です。

だから、意表を突くタイミングというものが極めて重要になるのです。

欧州中央銀行(ECB)の場合、僕は必ず利下げすると思っています。

なぜなら数週間前にドイツのブンデスバンクが「いままで以上にインフレになっても、構わないよ」という、インフレ容認発言をしたからです。

ECBが引き締め気味の金利政策を採ってきたひとつの理由は、インフレをとりわけ嫌う、ドイツに対し「気兼ね」してきたからです。

そのドイツが「利下げしても、いいよ」と事実上のOKサインを出したのです。

ただ、ECBが「はいそうですか」と言って、そのまま利下げすると余りにも見え透いていて、ドラマというものが、ありません。

ドラマを演出することなしに、無造作に利下げすると、取り返しのつかないことになるリスクがあります。

元ストリッパーで、映画『JUNO』の脚本家でもあるディアブロ・コーディーが昔NPRのインタビューに応えて、とても深いコメントをしています。

「ストリッパーをやっていると、ある夜は自分がその場の全てを完全に支配し、観衆を釘付けにしていると感じるときもある。そういう日は自分がパワフルだと感じるし、美しいと思える。でも別の日には観衆はぜんぜん乗って来ない。誰も自分のことに注意を払ってくれないし、野次が飛んでくることもある。無視された夜は自分が無力で、丸裸で、醜いと感じてしまう」


ECB総裁のマリオ・ドラギはゴールドマン・サックスに居たこともあり、そういう相場の機微をよくわきまえた人です。

ドラギは丸裸で無力な立場になるのを避けるために、ドラマチックなタイミングを待っているのです。

そのドラマチックなタイミングとは、6月17日のギリシャ再選挙かもしれないし、スペインの国債金利がいよいよ高くなって、銀行からの資金の引き出しが怒涛のように加速した瞬間かも知れない、、、。兎に角、市場参加者が肝を冷やすようなタイミングで、「神様、仏様ぁー!」とお祈りするような局面に颯爽と登場しなければいけないということです。

いずれにせよ未だこの駆け引きは終わっていないのです。

なお先日の人民銀行の利下げについては、翌日のマーケットは騰がらなかったけど、僕は評価しています。なぜならサプライズの要素があったから。

中国人民銀行はストリッパーの喩えでいえば、まだまだ着ているものが沢山ある状態です。だからこれから緩急自在に脱げば良いわけで、その意味で「貯金」があります。

その点、ECBは残り少なくなっているし、FRBに至っては「最後の一枚」くらいになっている。だから勝負はそれだけ難しくなっているわけです。