ウォールストリート・ジャーナルによると女性作家E.L.Jamesの『フィフティ・シェーズ・オブ・グレイ(Fifty Shades of Grey)』を代表とする三部作が、全世界でこれまでに3,100万部を売って、一大センセーションを巻き起こしているそうです。

第一作が出たのが2011年5月なので、わずか1年での偉業となります。

これまでにも『ドラゴン・タトゥー』のシリーズが2,000万部を売った実績がありますが、それは三年間で達成された記録であり、『フィフティ・シェーズ』シリーズのモメンタムの凄さは、その比ではありません。

同作は21歳の英文学を専攻する女子大生、アナステージア・スティールが変態的なセックスを好む富豪、クリスチャン・グレイによって弄ばれるという筋立てです。

英ガーディアンの批評家、ゾー・ウイリアムズは「著者の語り口はユルく、ありえない会話や、非現実的な登場人物たちの設定、稚拙な独り言の連発など、作家としての技法は未熟」だと指摘しています。

しかし、これがことセックスシーンの描写になると「丁寧で、発明的で、大胆で、葛藤に満ちている」と手放しの褒めようです。



Fifty Shades of Grey
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また「主人公は変態的な性行為にしか興味を持たないけれど、火あぶりや、顔に傷をつけること、血が出るようなこと、へんな器具をつかうこと、子供や動物を使う事、傷跡が永久に残る事、電気を使う事などはご法度」という厳密なルールの下で創作されているので、女性の読者にフレンドリーであることも指摘しています。

このシリーズの大成功は世界の出版社を驚かせました。

つまり女性の読者層が何を求めているかを、知っていたつもりだけど、現実には消費者は出版社が考えるより遥かにドギツイ読み物を欲していたということです。

また電子書籍リーダーというメディアがこのブームに一役買っていることはまぎれもない事実です。

それまで女性はムキムキ男が表紙を飾っているロマンスノベルを読んでいるところを、同僚や通勤電車に乗り合わせた他人に見られたくないし、書店でそれを買い求める時にはずかしいという問題がありました。

しかし電子書籍リーダーなら、だれにも気付かれることなくダウンロードできるし、電車で読んでいてもわかりません。

さらに最近の傾向としてそういうエロい本を読んだ感想をTwitterなどでオープンに話し合うことが流行っているそうです。

結局のところ電子書籍リーダー向けのエロい本は、「女性が達することを助ける」という実用的な目的をきちんと果たす必要があるのです。作者のE.L. Jamesはそういうシーンをほのめかすのではなく、ハッキリ明示的に叙述しているという点で、読者の自家発電ニーズを的確に理解しています。

電子書籍リーダーという新しいメディアの持つ特性をよく理解し、積極的に利用したこと……これが『Fifty Shades』の勝因。