ビルドアップしてみて駄目だったなら、次は壊してみる他ない……有り体に言えば、それが今の世界の投資銀行の置かれた状況です。

1982年に米国証券取引委員会が「ルール415(=シェルフ・レジストレーション→いわゆる一括登録制度)」を導入して以来、トレーディング力が引受の勝敗を決めるようになりました。それは言葉を変えて言えば、バランスシート力の重要性が増したということです。

一方、英国ではビッグバンが起き、それまで特権化、徒弟化していた証券業にまつわるいろいろな免許が自由競争に晒されるようになりました。

これらの制度変更で、スケールの大きさを求める、投資銀行の軍拡競争時代の幕が切って落とされたのです。それ以来、投資銀行のビジネスは2008年のリーマンショックまで、肥大化の一途を辿ってきました。

しかし「大きすぎて、潰せない」ハンプティ・ダンプティのようなメタボ投資銀行がひとたびおなかをこわしたら、経済全体が悪臭プンプン状態になることが世間一般の人にもわかって以来、社会のメタボ投資銀行を見る目は厳しくなりました。

そこでそれらの投資銀行は最近、バランスシートのレバレッジを下げる努力をしています。

自己資本比率は下のグラフにあるようにだんだん改善しています。
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さらに短期のホールセール・ファンディングへの依存度も近年著しく低下しています。
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しかし銀行の自己資本を拡充させる事に対する行政からの風当たりは今後も強いと思われます。それは「なるべく店内に証券の在庫を持たない」経営戦略へと方向転換を強いられることを示唆しています。

具体的には社債のトレーディングなどで従来の人手を介した仲介手法では資本規制上不利になるので、HFT(ハイ・フリックエンシー・トレーディング=アルゴ・トレーディング)に一層傾斜することが必須となります。

既に株式ではトレーディングの自動化が進み、セールスやセールス・トレーダーはどんどん解雇されていますが、今後、債券でも「トレーディング・ルームの間引き」が起こると予想されます。
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またLIBORスキャンダルは長く尾を引く問題になると思われますが、若し司法省から召喚令状が出るような事があれば、大陪審を通じて組織犯罪事業浸透取締法による起訴が議論されるなどの、サイアクのシナリオも全く可能性ゼロとは言えないと思うのです。

その場合、銀行の信用に関するクレディビリティは粉々に粉砕されてしまいます。

現在のデリバティブ市場は、デリバティブ商品を組成する際に、一回、銀行のバランスシートでそれを請けるカタチで全ての商品がデザインされているので、金融機関のクレジット・レーティングが脅かされ始めると、全ての商品作りに悪影響が出ます。
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言い換えれば、銀行のバランスシートがSingle point of failure(SPOF)になってしまっているのです。

このようにスケール・メリットが何の意味もなさない現状では、早く投資銀行を解体して、SPOFを避けることが最善の策となります。

このような事例は過去に何度も繰り返されています。

たとえば米国では昔、コングロマリット・ブームがあり、ITTやガルフ&ウエスタンなどの、本来ぜんぜん関連性の無いビジネスをゴテゴテつけ足して、巨大企業体を作ることが持て囃された時代がありました。

しかしコングロマリットが上手く機能しないとなると、今度はそれらをどんどん解体することで株式の潜在価値の顕在化を目指したのです。

メガバンクはオワコンだというのは明白であり、今は「早く小さくなった方が勝ち」という世界になろうとしています。

先日のサンディ・ワイルのコメントも、そういうトレンドを先取りしたものではないでしょうか?