eBook USERに掲載された、まつもとあつし氏の「力が無い販売サイトは料率をさげるべきなのか?」という記事を興味深く読みました。

その記事(たいへん良い記事です)は佐々木俊尚氏がパブーと喧嘩して、それがTwitter上でダダ漏れになった事件をきっかけに、出版社と著者の力関係ならびに報酬の取り分はどうあるべきか?という事を考察しています。

ただアメリカに住んでいる立場から言わせてもらうと、「電子書店、コンテンツ販売サイトにも多様化が求められている」という主張は(それはそうに違いないけど)甘い面があると思います。

消費者は意外に保守的なものです。

だから新しい商品やサービスを提案する場合、それまでの習慣の一部を「変えませんか?」と提案することは出来るけど、余りに改変される項目が多すぎると、彼らは尻込みしてしまうのです。


アマゾンやアップルなら、既にそれらのサイトに自分のクレジットカード情報は渡してあるので、新しい商品をホームページの店先に並べるだけでOKです。

しかし新しい電子書籍の業者は「ウチのサイトで本を買いませんか?そのためには先ずアナタのクレジットカード番号などの個人情報を入力して下さい」というところから説得を始めないといけないのです。

何処の馬の骨かもわからない業者からそうアプローチされても、僕なら(オタクの企業はこれから5年先に存続しているの?)と感じてしまいます。

電子書籍を販売するという行為は「売り切り」ではありません。アマゾンなどの電子書籍のサイトはずっとそこで扱う商品、つまり本をサポートし続けなければいけないのです。言い換えれば電子書店の「スタミナ」や「信用力」が極めて重要になるのです。

僕は先ず、ゴーイング・コンサーンとしての彼らの持久力に、大きな不安を持っています。

僕は究極的には電子書籍の販売のビジネスはコモディティ・ビジネスだと思っています。そこではアマゾンのような事業スケールの大きな企業だけが生き残ると予想しています。

まつもと氏の記事で、電子書籍の販売にもマーケティング・コストがかかるという指摘は、その通りだと思います。

電子書籍の販売サイトに自分の作品を持ち込めば、電子書籍の出版社が何かの魔法で自分の本を沢山売ってくれるというのは著者の側の甘い幻想に過ぎません。

これが紙の本なら、出版までのハードルは高いけど(一度印刷機を回すと或る程度出版社の持つ販売ルートに乗せて売ってくれるだろう)と著者は期待します。つまり著者に甘えがあるわけです。

しかし電子書籍の場合、いくら商品を棚に並べたところで、それが消費者に発見されなければ、店晒しの状態で腐るだけです。

言い方を変えれば、著者は平素から流通に頼らず、100%自力で需要を喚起できるだけのマーケティング努力をしなければいけないということです。

カリスマ編集者が興したCakesという会社が週150円(僕はこの料金設定はバカ高いと思うけど)で著名執筆陣の連載を「読み放題」というサービスを始めることがまつもと氏の記事にも載っていますが、そこに名前を連ねている執筆者の方々は既に個人のセルフブランディングが確立している、出版社からのマーケティング支援を必要としない人たちばかりです。

意地悪な見方をすれば、彼らの実力に「乗っかっている」のはむしろCakesの方ではないでしょうか?

僕の考えでは出版社の持つコア・コンピタンスは次の二つに要約できると思います。

1.商品のパッケージング力(企画を含めて)
2.商品を流通経路に乗せる力

このうち2.の商品をマーケティングしてゆく実力に関しては、紙の世界では出版社の存在意義が実証されていると思うけど、こと電子書籍に関しては未だ実績は無いと言わざるを得ません。

そこに電子書籍がある……僕も買って読みたい!……
消費者目線から見た場合、この商品のdiscoveryのプロセスでの電子書籍出版社の果たしている役割が余りにも小さいことが、販売手数料を巡る今回のいざこざの本質だと思うのです。