Market Hackの月例編集会議で仕掛人の田端さんから「相場師列伝みたいな記事を書いてくれ」と頼まれました。但し、僕が実際に知っている投資家という注文ツキです。

スティーブンA.コーエンはSACキャピタルというヘッジファンドを創業した、立志伝中のヘッジファンド・マネージャーです。

SACキャピタルは100億ドル以上を運用しているヘッジファンドであり、創業当時はアグレッシブなトレーディング・スタイルで有名でした。

運用のビジネスは「これはヴァリュー、これはグローバル・マクロ」など、運用方針によってマネージャーを分類し、その文脈の中で運用の腕前を論じ、評価する場合が多いです。

従ってそういう定型にはまらないマネージャーは、評価されにくいし、一般投資家は知りません。

そういうフリースタイルの名人にマイケル・スタインハートが居ますが、このスティーブンA.コーエンもそんな投資家のうちの一人です。

話が脱線して恐縮ですが、スタインハートとコーエンには共通点があります。

それは二人ともロングアイランド(=スタインハートの場合は正確にはブルックリン)の郊外に育ち、幼少の頃から株式に目覚めて、バイトで稼いだ金を握りしめて証券会社の店頭に行き、口座を開こうとして追い返されている経験を持っている点です。(二人ともその後、証券会社に口座を開き、社会人になるずっと以前から手張りでガンガン儲けていました)

コーエンの育ったグレート・ネックはF.スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の舞台となった「ウエスト・エッグ村」に近い場所だと言われています。

下の地図で下の方のピンがグレート・ネックの所在地、上のロングアイランド・サウンドという内海に隣接したピンが「グレート・ギャツビー・マンション」あるいは「ランズエンド」という愛称の、同小説のモデルになった館の場所です。


View グレート・ギャツビー・マンション(または『ランズエンド』) in a larger map


スタインハートも、コーエンも大学を出てから小さな証券会社に就職し、そこで相場の腕を磨いてから独立します。

スタインハートの場合はローブ・ローズ、コーエンの場合はグランタルという証券会社です。

特にコーエンの就職したグランタルは「ウォール街の愚連隊」の異名を取る、日本で言えば地場証券のような存在でした。

コーエンはグランタルで自己ポジションのトレーダーをしていました。所謂、歩合制で、利喰ったお金の何割かが自分の懐に入るという雇用形態です。僕がスティーブンの華麗なトレーディング・スタイルを知ったのは、僕が勤める投資銀行の同僚にグランタル出身のテッドという名前の営業マンが居て、彼が独立したばかりのスティーブンを上得意の客としていたからです。

彼らがある銘柄を仕掛け始めると、その株がまるで生き物のように動意付く……そういう光景を何度も見ました。おそらく沢山提灯もついていたのだと思います。

彼らの手掛ける銘柄のアイデアは、いつもピカイチでした。

その後SACはドットコム・ブームの頃に黄金時代を迎えます。ただ最近はこのSACにしろ、インサイダー取引のスキャンダルでイメージを毀損したギャリオンにせよ、「早撃ちマック」のようなスタイルのヘッジファンドは斜陽になっている気がします。