ニューヨーク・タイムズによるとドイツで「第二次世界大戦後初の、全国レベルでの国民投票を実施すべきではないか?」という機運が高まっているそうです。

ドイツではこれまで地方ではレファレンダム(国民投票)が実施された実績がありますが、連邦レベルでは第二次世界大戦以降、一回も実施されていません。なぜなら一般投票(plebiscite)は憲法の基本法改正の際だけに実施されることという規定があり、これまでに一回もそれは改正されたことが無かったからです。

なぜ一般投票実施というアイデアが勢いを持ち始めているのでしょうか?

それは一つにはドイツの国民や政治家の間で、ユーロ問題に取り組む際の、ドイツの機動力がイマイチだというフラストレーションがたまっているからです。

欧州財政危機の救済プランは既に合意され、6月29日のドイツ連邦議会で圧倒的多数で可決されています。しかし一部の反対派議員が「これは違憲だ」と主張し、ドイツ高裁に提訴したのです。この判決は9月12日に言い渡される予定です。



改憲議論が湧きあがった背景には、「折角、議会が圧倒的多数で南欧諸国救済を決めても、一部の駄々をこねる議員に妨害され、アクションを起こすのが遅れてしまっている……それなら、いっそのこと憲法自体を改正してしまえば良いのではないか?」というムードが高まっていることがあります。

憲法改正を最初に声高に主張したのはショイブレ財務相で、彼の考えは「若しユーロを放棄してしまうとドイツはド不況になる。だからドイツはユーロを支持し続けなければいけない。それは南欧諸国に援助し続けることを意味する。もしお金を出す損な役割を演じ続ける運命にあるのなら、せめて相手に渡したお金の使い道に関して注文をつけることが出来る権利は確保したい」というものです。

しかしドイツがEUレベルで発言権を強化するということは個々の国レベルでの発言権は逆に抑えられる必要があります。両者はトレードオフの関係にあり、両方とも維持するというのは自己矛盾しているからです。

つまりドイツはヨーロッパ全体の経済の運営に口出しする発言権を強化するために、ソブリン(=国家レベル)としての権限は縮小するというわけです。ソブリンの権限は憲法によって定められているため、ここに一般投票の必要が出て来るわけです。

一般投票実施に関してはメルケル首相の属する与党連合の一部リーダーや野党のリーダーも支持を表明しています。

アンケート調査によるとドイツ国民の多くは「お金を出すなら、その使い道に関してドイツが口出しする権利を持ちたい」と感じているそうです。

ただ過去においてヨーロッパの他の国でレファレンダムが実施された際のトラックレコードはあまり芳しくありません。市場参加者の立場からすればそれは不確実性を増す要因になると思います。

さらにドイツが率先してソブリンの権限を制限し、EUの権限を強化する投票を行ったとしても、救済される側の国々がそれに追随する保証は無いと思います。