このところのアメリカの株式市場は「閑散に売りなし」の格言通り、薄商いの中をしっかりした展開となっています。

しかし9月の相場は8月ほどカンタンではない気がします。

例年、9月の最初の月曜日はレーバー・ディでお休みです。その関係でこの週末は三連休になるわけですが、この三連休はアメリカ人にとって夏休みの最後を楽しむ時期に当たります。

アメリカでは9月に学校に入学、あるいは進級する関係で、9月は「心機一転の月」です。日本人が桜を見ながら(新年度も頑張るぞ)と心に誓う感覚……アメリカではそれが9月というわけです。

ウォール街でも、レーバー・ディが明けると、続々、トレーダーやバンカーたちがバケーションから帰ってきます。相場の様相が一変するのも、9月であることが多いです。最近ではリーマンショックが起きた年、レーバー・ディを境として、悲壮感が加速度的に増したケースが思い出されます。

また1929年の大暴落と、それに続く大恐慌も、もとを正せばレーバー・ディ明けの相場の異変からスタートしたのです。


1929年9月3日にNY市場は最高値を更新した。しかしその影ですでにかれこれもう3年近くも「隠密のベア・マーケット」が進行していたことは一般の大衆は気づかなかった。実はスローモーションの暴落は既にずっと前からはじまっていたことはそういう難しい相場環境の中でお金を損した投資家なら身をもって経験していたことだ。この日の高値がこの後、四半世紀も更新されないド天井だったと誰が気付いただろう?

9月3日と言えばレーバー・デイの週末の翌日であり、証券取引所の伝統としては、新しい、活動的な季節の始まる日である。それは証券マンにとっては「新年」にも匹敵する大事な日だ。この日のニューヨークは記録的な猛暑に見舞われたにもかかわらず、個人投資家はダウンタウンの証券会社の店頭に陣取るとどんどん売り買い注文を出した。蒸し風呂のような熱気に包まれてNY市場はエベレストの頂上を極めたのだ。

その翌日はとりたてて珍しくも無い下げ相場だった。「タイムズ」の市況欄ではウォール・ストリート番の敏腕記者であるアレキサンダー・ディナ・ノイスが次のように書いている:

先週の相場の上げピッチは余りにも早すぎるし、マネー・マーケット市場の状況に照らして行き過ぎが感じられる。このためカンカンの強気派の間でも(やりすぎだな)という感じを抱いた者が多かった。

その翌日、つまり9月5日、後日「バブソンの下げ」と語り継がれる奇妙な現象が起こった。マサチューセッツ州ウエルズレーの片田舎のフィナンシャル・アドバイザーでヤギ面をしたロジャー・バブソンという男がニュー・イングランド地方の投資家を集めた昼食会でひとつおぼえの講釈をぶっていた。「私は、去年、そして一昨年から繰り返している主張をもう一度強調したい。遅かれ早かれ、大暴落が来る!」

バブソンの予言は皆から冷笑され、無視されてきた。いや、それどころか「あいつはチョッと頭がおかしい」とさえ思われていた。だが、この日はよほどニュースの無い日だったのだろう。なぜなら午後2時を回る頃にはバブソンのこの予言はダウジョーンズのニュース・ティッカーに乗って全米の証券会社の店頭に流されたからだ。驚いたことに株式市場はなんの躊躇も無く真っ逆さまに下落しはじめた。USスチールはこの日9ポイントも下がった。そればかりではない。ウエスチングハウスは7ポイント安、テレフォンは大引け前の怒涛のような売り物の中で6ポイント安だった。引け前1時間の出来高は200万株にも達した。このバブソンのちっぽけな予言がこれだけの波紋を呼んだのはどう理屈をこねても説明が出来ない事である。でも事実としてはそれが起こってしまったのだ。

不思議なことに多くの投資家は一瞬のうちにバブソンのこの発言には「予言」に似たちからがあることを悟った。バブソンが「大暴落」という言葉を使うまではウォール街では「大暴落」という言葉を使うことはタブー視されていた。ところがバブソンがこの言葉を使ってからは誰もが当たり前のようにそれを口にし始めたのだ。

『Once in Golconda』John Brooks Chapter 5: Things Fall Apart P110-111.
(1920年代から30年代のウォール街を活写したジョン・ブルックスの美しくも哀しい古典、『むかしゴルコンダにて』)


今週の金曜日はバーナンキFRB議長がジャクソンホールのシンポジウムでスピーチします。

最近の米国の経済指標はそれほど酷くないし、アメリカの株式市場は高値にあるので、普通に考えるとここでQE3のカードを切る意味は無いと思います。

だからQE3期待で株を買っていた連中は、がっかりさせられるリスクがあります。

それにも増して怖いのは、QE3が発表され、「好材料の出尽くし」でマーケットが暗転するシナリオです。

つまりバーナンキ議長はQE3を発表しなくても糾弾されるし、発表してもケチをつけられる、いわゆる『キャッチ22』的な境遇に追い込まれているわけです。