「財政の崖」問題がなぜマーケットにとって脅威なのか、そのインパクトは特に日本の投資家にはよく理解されていません。そこで今日は「財政の崖」の何が問題なのか? そしてそれがマーケットに与えるインパクトに対して僕が考えているシナリオについて述べます。

「財政の崖」とはブッシュ大統領時代から続いてきた諸々の不況対策プログラムが今年年末で相次いで終了することを指します。

それらのプログラムの延長の合意がなければ、一時的にGDPはマイナスになると言われています。GDPを▼4%押し下げる効果があると主張するエコノミストもいます。すると現在の米国のGDPは大体+2%程度で推移しているので、ザックリ言ってGDPが-2%になるというわけです。(これについては異説も多いです。僕はGDPへのインパクトは重視していません)

今後のシナリオとしては二つあります。

先ず「財政の崖」が回避され、不安感が払しょくされたときに相場が反落するというシナリオ

よく「相場は不安の壁を駆け上る」といいますが、今、投資家はいずれ回避されるであろう「財政の壁」問題の解決を一足先に織り込みたくて、ウズウズしているわけです。このように若し足元の相場が高いのであれば、「相場は知ったら、しまい」で、グッドニュースがもたらされたときが売り場になります。

次に「財政の崖」が回避出来ず、相場が下がった後で買い場が来るというシナリオです。

なぜ「財政の崖」回避という良いニュースが相場にとってマイナスかというと、「財政の崖」回避のためには増税が不可避だからです。

増税の少なからぬ部分は裕福層ならびに株式投資に対する課税です。だから「財政の崖」回避は悪材料なのです。

次に12月末までに合意に達せられず、自動的に財政の削減がキックインした場合も、政府支出が瞬間的に大幅に下がるのでGDPには大きなマイナスになります。

その場合、短期的に相場は荒れると思います。ただ長期的にはそれはプラスです。

増税や株式市場の混乱はドル高要因だと思います。



市場が極端なリスク回避に傾いた場合は、ドル高、円高の、所謂リスクオフ・トレードになる場合もあると思います。

どちらのシナリオにしても、一旦、相場は下を見ています。その後で、買い場探しというわけです。

いまは米国経済にとり、とても重要な時期に差し掛かっています。なぜならクリスマス商戦のシーズンだからです。

消費は、米国経済の70%を占めています。だから消費がしっかりしないと米国経済もダメだし、中国をはじめとするBRICs経済もダメになります。

今年のクリスマス商戦の予想は+3%です。まだクリスマス商戦は折り返し地点まで来ていませんが、今のところ出足は好調のようです。強いて言えばショッピングセンター(つまり実店舗)の売上高は少し冴えません。これはネット・ショッピングに顧客を奪われているからです。

そのネット・ショッピングは去年と同様か、それより少し強い程度で推移しています。

ここまでの実店舗ならびにネット・ショッピングの傾向をまとめると、消費がドカンと落ち込むような、最悪のシナリオはもう心配しなくて良いという事です。

米国の消費が堅調なのは、リーマンショック前後から始まった、家計の負債の圧縮が進んだことが一因です。

1


失業率も改善基調にあります。非農業部門雇用者数も四ヶ月連続で+10万人を超えました。なお今週の金曜日に予定されている非農業部門雇用者数の発表はハリケーン・サンディの影響を受けているのでどんな数字が出ても関係ないと思います。因みにコンセンサスは+9万人です。

家計のバランスシートの修復が進み、さらに雇用も復活してきているので米国の消費者信頼感指数は上向き加減です。これが消費の底堅い理由です。

2


オバマ大統領と民主党は財政赤字削減の切り札が増税だと考えています。とりわけ裕福層に対しては「もっと負担して欲しい」と厳しい態度を取っています。

2012年の実効最高税率は37.9%ですが、オバマ案ではこれが44.6%になります。

税率引き上げの内訳は:

最高税率を現行の35%から39.6%へ
メディケア税を現行の2.9%から3.8%へ
税控除に上限を設定する→実質的に1.2%の増税となる


などです。

配当収入に関しては現行の15%の税率が、オバマ・プランでは一気に実効最高税率である44.6%になるため、折角、配当を貰っても、それが税金でかなり持って行かれるリスクが高まっているのです。

オバマ大統領は向こう10年間で1.6兆ドルの増税という案を提示しました。共和党によって支配されている下院はこれに対して向こう10年で8千億ドルの増税という案なら合意できるとし、去年、やり残した議論の時点から一歩も譲っていません

共和党と民主党の間で合意が成立せず、「財政の崖」から落ちてしまった場合、自動的に所得税の増税の引き金が引かれます。下は税金の増加分を一覧表にしたものです。

3


全ての所得階層で税率がUPすることに注目して下さい。

すると、「財政の崖」を回避できても増税はたぶん避けられないし、「財政の崖」から落ちてしまった場合も増税になるわけです。

株式市場は、そんなの何処吹く風で、余り心配していません。でも中小企業をはじめとしたビジネスは、この「財政の崖」の議論をとても心配しています。不透明感があるうちは新規投資などは控え気味にならざるを得ません。

それを受けて11月のISM製造業景況指数は予想の51.5に対して49.5と悪い数字でした。これは2009年7月の49.2以来、最も低い数字です。この指数が50以下になるということは景気が緊縮していることを示します。ただ今回の数字は特殊要因が働いていることを頭に入れておく必要があります。それはハリケーン・サンディです。

この台風の影響で米国の約5分の1の地域が一週間以上に渡って悪影響を受けました。12月に製造業の活動が復活するかどうかに注目したいと思います。

なおサブインデックスを見ると新規受注が特に軟化しました。

一般に堅調な消費に比べて、米国の製造業の活動や企業の投資活動は相変わらず動きが鈍いです。

ここで米国のGDPの予想がどうなっていて、それがどのような構成要素から成っていて、それぞれの構成要素は今後どのように推移すると見られているのかを、少し纏めてみたいと思います。まずGDPのこれまでの実績と予想のグラフです。

4


2012年のGDPは15.6兆ドルでした。GDPの主な構成要素としては最終消費が一番大きいです。

5


なおこの構成要素は一部ダブルカウントされている部分もあるので、構成要素の総和とGDPは少し食い違いがあります。意外に住宅固定投資が小さいことがわかります。

最近、米国の住宅市場が復活してきているので、これを囃してアメリカ経済は大丈夫だという人がいますが、実際には連邦政府の支出や州政府の支出の方が住宅より重要です。非住居固定資産投資の多くはビジネスの設備投資です。

2012年の最終消費は13.5兆ドルでした。くどいですが米国経済がまずまずOKなのは、住宅ではなく、消費がしっかりしているからです。 中期的には「財政の壁」の議論より消費の堅調の方が材料として重要だと僕が考えるのは、その規模がデカいからです。

2012年の非住居固定投資は1.5兆ドル、住宅固定投資は3670億ドル、輸出は1.8兆ドル、輸入は2.23兆ドル、連邦政府支出は1兆ドル、州政府支出は1.4兆ドルでした。

米国経済、とりわけ消費が好調だということは米国にモノを輸出する中国をはじめとする各国にとってもプラスです。BRICsの製造業購買担当者指数は11月にロシアを除き、軒並みアップティックしました。特に新規輸出受注の項目が強かったです。

欧州に目を移すと、ドイツ経済だけが好調で、その他はドイツにおんぶにダッコという構図になっています。そのドイツでは来年以降、輸出の貢献がほぼゼロになり、もっぱら国内消費に依存するカタチになると見られています。

9


ただ足下の小売売上高指数はまだモタモタしています。

10