ブルームバーグが英国のメディア・コングロマリット、ピアソンの傘下にあるフィナンシャル・タイムズ(Financial Times、略してFT)の買収を検討していると伝えられています。

フィナンシャル・タイムズはエコノミスト誌(The Economist)の50%も所有しているため、FTを買えばエコノミストの半分もおまけでついてくるわけです。

言うまでも無くFTはウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal、略してWSJ)と並んで世界に君臨する二大経済紙です。FTの方がWSJより国際的だと思います。

フィナンシャル・タイムズは厳格なペイウォール(有料購読の壁)を設けており、それにもかかわらず成功を収めている事で知られています。現在の購読者数は約60万人で、そのうちの半分がオンラインです。

ピアソンは子会社であるフィナンシャル・タイムズの業績を発表していません。しかしニューヨーク・タイムズによるとフィナンシャル・タイムズは赤字だそうです。

言い換えれば、既にオンライン戦略で業界関係者からは「上手く行っている方だ」と見做されている新聞でありながら利益は出せていない……つまり改善の余地が少ない投資対象を何故わざわざマイケル・ブルームバーグは魅力的だと感じているのか? という疑問が湧くわけです。


これはブルームバーグの報道メディアとしてのステータスの問題が関係していると思います。ブルームバーグの端末自体は(僕も昔はユーザーでしたが)年間2万ドルもする使用料を取られる「情報端末のロールス・ロイス」であり、世界の32万人の端末ユーザーに愛用されています。

しかしブルームバーグのニュース・コンテンツは市況解説に毛の生えた程度のショボい記事が多く、ニューヨーク・タイムズも「端末ユーザーのための、ひとつのアメニティとしてのニュース・サービスなのか、それとも骨太な国際ニュース配信組織なのか」ハッキリしないと指摘しています。僕に言わせれば、現状としては「違いのわかる」目の肥えたユーザーはお粗末なカバレッジが多すぎるブルームバーグ・ニュースは、引用しません。

マイケル・ブルームバーグが欲しいのは、だからFTの利益ではなく、プレステージなのです。

言い方を変えれば、ペンペン草も生えない「ジャーナリズムの姨捨山」であるブルームバーグ・ニュースに活を入れるという意味合いがあるということ。

なお個人的にはFTの記事の「質」や見識の高さには全く不満は無いのですが「ページ・ジャンプ(○ページに続くというカタチで、あちこちひっくり返さないと記事を読み終える事ができないレイアウトを指す)なし」というFTのトップページの編集方針は「量」の面で喰い足りない記事が多くなってしまう弱点を持っており、深く掘り下げた、美味しいディテールを期待する読者には不満が残ります。

さて、話は脱線しますがFTに身売り話が出ている折に、ライバルのWSJではトップ・マネージメントが入れ替えられました。これまでWSJを仕切っていたロバート・トンプソンがWSJの親会社であるニューズ・コーポレーションの出版ビジネス全般を統括することになり、WSJの経営はジェラルド・ベーカーとレックス・フェンウィックに任されることになったのです。

ロバート・トンプソンの指揮の下、WSJは経済に余り関係ないライフスタイルなどの一般記事を強化しました。また週末版に力を入れました。さらにラグジャリー・マガジンをローンチしました。これらはいずれもラグジャリー・グッズなどの広告主を獲得するための戦略です。

新しく采配を掌握するベーカーとフェンウィックは「WSJの生え抜きではないため、ニュースルームにおける草の根の支持は無い」とニューヨーク・タイムズは分析しています。

むしろ今回の人事で興味深かった点は生え抜き組でトップを走っていたアラン・マレーがWSJを辞し、ピュー・リサーチ・センターの社長に転出した事でしょう。アラン・マレーは1980年代に地獄耳のFEDウォッチャーとして勇名を轟かせた金利畑出身の記者です。彼が権力抗争に敗れた(?)という事は、今のWSJの立ち位置を良く示していると思います。