前回のエントリーで新興国投資に際して僕が輸出パフォーマンスを重視していることを書きました。

今日はその延長で、経常収支の重要性について述べます。その前に言葉の説明をします。まず経常収支とは貿易収支に次の3つを加えたものを指します:

サービス収支
所得収支
経常移転収支


貿易収支が「輸出-輸入」で計算されることは前回説明した通りです。サービス収支は「サービス輸出-サービス輸入」です。

理解しにくいのは所得収支かも知れません。これは対外直接投資や証券投資の収益を指します。経常移転収支は政府開発援助のうち現物支給分を指します。

なんだかモヤモヤわからなくなったかも知れませんね。僕は個人的にはもっと直感的なイメージで経常収支を捉えています。それは:

経常収支 = 貿易収支+ホットマネー


です。これは正確な記述ではないけれど、有り体に言えば経常収支がぐわんぐわんにブレる原因の大部分は気まぐれな投資資金の存在なのです。

新興国が自助努力で改善できるのは、あくまでも貿易収支です。ホットマネーは気まぐれな世界の投資家(それはこれを読んでいるアナタに他ならないわけですが)の「勘違いマネー」です。

日曜日の日経新聞に出ている投信の全面広告を見て、ヘンに安心した気分になって外国投信を買うとか(笑)、通勤の時、山手線の中吊り広告に新興国の話題が出ているのを見て自分も買わないといけない気になる(笑)……そういうお金が、主に貿易委収支と経常収支の差額分となって現れるのです。そしてそれは殆どマイナスとなって醜い頭をもたげるわけです。

新興国の投資信託を買って、投資資金の大半を失うような失敗の殆どは、経常収支がメチャクチャに赤字になった局面で至現するのです。

具体例で見てみましょう。

下はメキシコのペソ危機(1994年)の時の経常収支です。
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ハーバード大学出のカルロス・サリナスがメキシコの大統領になり、メキシコがいよいよ経済改革に乗り出すという期待感にウォール街が包まれたのが、投資資金がワッとメキシコに押し寄せた一因です。

しかしペソが強含むとメキシコの輸出競争力はあっと言う間に消えてなくなりました。また強い通貨は身の丈以上の消費ブームをメキシコにもたらし、94年に危機が襲うわけです。

ひとたび通貨が暴落してしまうと外国製品は高くて庶民に手が出なくなります。それで輸入が激減したので経常収支は改善を見たわけです。

なおペソ危機が勃発したのは経常赤字がGDPの6%程度になったときであることに注目して下さい。


次の例はタイランドのバーツ危機です。このときも「アジアの奇跡」とかちやほやされて、バンコクでコンドミニアムの建設ブームがありました。
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危機が破裂したときの経常赤字はGDPの8%程度でした。

ひとたび通貨が暴落してしまうと輸出競争力が出るので、その後、貿易収支は急速に改善しました。このケースからもわかるように通貨高は99%の国にとって「百害あって一利なし」なのです。その事を日本の大学の経済学の講義ではしっかり教えない…(笑)。

タイランドはその後、昔よりずっと手堅い経済運営をするようになっています。

次はインドネシアです。インドネシアもアジア通貨危機の際に手痛い打撃を受けた国のひとつです。
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その後、インドネシアの経済運営も手堅いものに変わっています。ただ最近になってまたホットマネー的な現象がチラついているのが気になります。未だ現時点では経常赤字はGDPの2%程度ですのでOKでしょうけど、気を緩めるわけにはゆきません。

アルゼンチンは国内に米ドルが広く流通し、その関係で「通貨危機には、なりにくい」と言われていました。現実的にはそういう経済のダラライゼーションにもかかわらず、通貨危機はアルゼンチンを容赦なく襲いました。
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次に中国を見ると常に経常黒字であることがわかります。優等生です。
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インドは2000年代の前半にチョッと経常黒字になりましたが、それ以降は赤字続きです。しかもトレンドはどんどん悪化しています。
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投資家は「インドは近く経済の構造改革を断行するだろう」と同国の「出世払い」メンタリティーを大目に見る傾向があります。しかし小売セクターの外資開放などの改革が遅れれば、危機に見舞われるリスクを含んでいると言えます。

バングラデシュは衣料品の輸出ブームで経常黒字になっていましたが、最近はホットマネーが入り始めているので予断を許しません。ミシンや港湾施設など、生産的なものに投資資金が向かっているうちは大丈夫でしょうが、気を付ける必要があります。
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ベトナムは日本人に人気のある国ですが、同国の輸出パフォーマンスには、ハッキリ言ってがっかりさせられます。
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移り気な投機資金に翻弄されている、典型的なマーケットです。今年は久しぶりに経常黒字になりそうですが、コンスタントに黒字が出せるか注視したいと思います。

ブラジルは中国がコモディティを旺盛に消費していた時は経常黒字でしたが、少し中国の経済に陰りが見えるとすぐに赤字に転落しました。
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赤字額は未だGDPの2%程度なので危機的ではありませんが、直ぐに輸出を立て直す必要があります。