「財政の崖」回避への努力が、依然続けられています。
民主党が多数派を占めている上院では「財政の崖」回避のための上院案がようやくまとまり、投票に付されました。89対8で可決されました。

YESの投票がどのくらい多いかがひとつの注目点になっていたので、圧倒的多数で可決されたことは、これから下院の投票にかけられる際、勢いがあるという意味でプラスでしょう。ただ下院は共和党が過半数を占めているので、上院案がすんなり通らない場合も考えられます。

若し上院案が否決された場合、下院はこれに代わる下院案を出さなければいけません。大きな不確実性を未だ残しているわけです。そういう中途半端な局面ではありますが、今回の上院案に盛り込まれた内容を見て、二つの事を感じます。ひとつは「残尿感」という事です。もうひとつは「裕福層にシビアで、低所得者層を優遇する、ロビンフッド的な法案だ」という点です。


まず「残尿感」を説明します。

今回の法案では(コンセンサスが得られる可能性は低いだろう)と思われる項目がごっそり積み残しになりました。つまり「見切り発車」です。その結果、「財政の崖」から落ちた時に、自動的に発動する増収・切り詰め効果の5分の1程度しか、今回の上院案はインパクトがないのです。「嬉しさも、5分の1」と言い直しても良いでしょう。

積み残した課題の中には、待ったなしで、すぐに問題にぶち当たる、期限の迫った問題もあります。それは米国連邦政府の債務上限のリミットが2月から3月にも上限に達してしまう問題です。

言い直せば、今回、下院が上位案を可決し、「財政の崖」回避法案が採択されたとしても、後回しにした難問が、すぐに追いかけて来る(笑)というわけです。投資家にとっては「気分スッキリ、心機一転して頑張ろう」と、なかなか言いにくい状況ではないでしょうか?

次に上院案は「ロビンフッド的な法案」という印象について説明します。

今回、同法案に盛り込まれた内容は:

1.年収40万ドル以上の個人、ならびに年収45万ドル以上のカップルに対する所得税の引き上げ
2.キャピタルゲイン税を15%から20%程度へ引き上げ
3.年収25万ドル以上の個人、ならびに年収30万ドル以上のカップルが確定申告する際の税控除を一部制限
4.五百万ドル以上の遺産相続の際は、相続税を現行の35%から40%へ引き上げ


などです。

因みに所得税が増税になるのは過去20年で初めての事です。またキャピタルゲイン税の増税は1987年以来です。1987年は言うまでも無く、ニューヨーク株式市場の大暴落、つまりブラックマンデーがあった年です。

このように上院案は株式市場の投資家や裕福層に一方的にしわ寄せが来る内容になっています。

そもそも「財政の崖」の議論が難航した理由は、共和党は増税に大反対、民主党はソーシャル・セキュリティ(社会保障制度)などの切り詰めに大反対という、両極端の立場から話し合いがスタートしたからです。

結果的には切り詰めはゼロに近く、増税ばかりが盛り込まれる、一方的な内容になりました。つまり民主党の勝利です。(ただし、最初から書いているようにこれは未だ上院案の段階ですから、「ここまでは……」です)

それはもっと踏み込んで言えば、「金持ちからむしれるだけむしって、貧乏人にばら撒こう」という法案に他ならないのです。

僕はそういう価値観を否定しているわけでは、決してありません。

今のアメリカ、これだけ格差が拡大してしまうと、昔の英国のように「階級社会」になってしまうかも知れません。その意味では、社会階層の固定化と、それに伴う諸問題の発生を防ぐという意味では、貧富の差の拡大に歯止めをかける法案の登場が待たれていたという考え方も出来ると思うのです。

それは1990年代以降の米国の税制が「投資家・裕福層にフレンドリー」の一辺倒だったことを意味します。その大きな潮流が、いま逆流しようとしている……それこそが問題なのです。