ロシアのモスクワの郊外に「ロシアのシリコンバレー」を作る計画が進行しています。それを見て(日本でも同じことをやれば、成功するだろうか?)と考えてしまいます。

ロシアは科学の基礎研究や教育がしっかりしているので、それなりの成果が出るかもしれません。ただ……単にハイテクの研究機関や企業を集積しただけではシリコンバレーと全く同じ成功を「複製」することは出来ないと思うのです。

シリコンバレーの競争優位を説明する際、ゼロックスPARCやスタンフォード大学やロッキードの存在が指摘されることが多いです。もちろん、それらは重要です。でも優秀な人材なら、なにもシリコンバレーまで行かなくても日本にも沢山居ます。

シリコンバレーが世界中の優秀な人材を惹き付ける理由は、単にそこに優秀な人材が揃っているとか、起業の環境が整っているとか、お金儲けがしやすいからだけではありません。それ以上の「何か」が、そこにあるからです。具体的にはカリフォルニア特有の楽観主義、自由気ままさ、他人に対する寛容さ、個人主義、スピリチュアリズムなどです。

我々が今日、カリフォルニアと聞いてイメージするそのようなキャラクターの大部分は、1950年代から1970年代前半にかけて醸成されたものです。だから、その当時のカリフォルニアの若者達が何を考え、どう生きたかを少し考えてみる必要があるのではないでしょうか?


昨日のエントリーでも言及しましたが、アップルのスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で有名なスピーチを行いました。ジョブズはそのスピーチを「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」という言葉で締めくくりました。これは『全地球カタログ』最終号の裏表紙に書かれていた言葉からの引用です。ハングリー精神という言葉がありますが、ここでのハングリーとは現状に満足せず、常に新しいものや、より高次な処を目指せという意味です。また、フーリッシュとは「馬鹿をやる」程度の意味で、世間の常識や慣習に気兼ねせず、間違ってもいいから自分の感じた通りに動けということです。「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」というアドバイスは、米国西海岸のカウンター・カルチャーのエートスを、そのまま体現したものだと言えます。

すると「カウンター・カルチャーって……?」という事が、先ずかわらない読者が出て来ると思います。カウンター・カルチャーというのはその時代や社会の規範となっている、主流派の考え方に対して「僕はそうは思わない」とか「僕はそういう事には、萌えない」という異論(=カウンター)を提起するようなサブカルチャーを指します。つまりrebel(反抗者)なわけです。むほんを起こす覚悟で、自分の主張や趣味を貫かないといけないわけです。

昔、サンフランシスコ・ベイエリアで「サマー・オブ・ラブ」という社会現象が起きました。1967年のことです。「フラワー・ムーブメント」という言い方をする人も居ます。もちろん今ではそのようなヒッピー・ムーブメントは過去のものです。ただ実際にベイエリアに暮らしていると、この地域の人たちが、いかに当時のムーブメントに影響を受けたかを思い知ることが多いです。ブームが上り坂の頃のヒッピー達は、基本的に楽観主義であり、希望を持っており、自由気ままで、企業や権威に対して懐疑的でした。それはシリコンバレーの「can do精神」や、大企業を蔑むメンタリティー(強いもの、仕事が出来るものは自分で会社を興し、弱い者、能力の無いものが大企業につとめる)に相通じるものがあります。

これらは今の日本の若者の考え方と正反対だと言うことも出来るかも知れません。日本の若者達は大学を出るか、出ないかのタイミングで、一日も早く大企業の庇護の下に入ることばかり考えており、首尾よく潜り込めば、一日でも長くその世話になろうと願っています。つまり社畜です。この「長いものには巻かれろ」式のあきらめは、合理的でもあり、今の日本の若者の置かれた環境からすると、唯一のサバイバルを保証する「正解」なのだと思います。でもそれは西海岸カウンター・カルチャーのエートスとはおよそ対極に位置する価値観だと言わざるを得ません。だから「仏作って魂入れず」じゃないけれど、表面的な部分だけ猿真似して日本のITを再興しようと思っても、それは上手く行かないと思うのです。