今の僕の考えを整理しておきます。

リーマンショックが起きたのは2008年でした。今年は足掛け5年目になります。リーマンショック当時、世界の金融市場は非常事態に陥り、投資家は「今は大変な局面だから、特別な覚悟で相場に向かわねばならない」という認識を持ちました。だから金利政策もアブノーマルで良かったわけです。

しかし5年経った今、そろそろノーマルな状況と照らして、自分達はどこまで回復したのだろうか?ということを考えてみる必要があるように思うのです。そこで先ず各国のGDPの状況を見る事にします。

1

これは主要国のGDP成長率の予想です。出典は国際通貨基金(IMF)で、去年10月に発表されたデータです。

各国の過去10年の平均GDP成長率は左端、つまり青色のバーになります。長期の成長率ではオーストラリアが最も高く、次に米国、ユーロ圏、日本の順番になっていることがわかります。

今年、つまり2013年は紫色のバーになります。するとユーロ圏の場合、過去10年の平均GDP成長率は0.99%、2013年のGDP成長率予想は0.15%ですので、今年は過去10年の平均より低い成長に甘んじることになりそうだということがわかります。

米国に目を移すと過去10年の平均は1.66%、今年の予想は2.12%なので、平均以上のペースで景気が拡大すると見られているわけです。言い換えればユーロ圏はまだ景気が悪いので緩和が必要、一方、米国はノーマルな経済にだいぶ戻りつつあるわけです。

すると素朴な疑問として「超低金利のままで、いいの?」という事が思い浮かぶわけです。言い換えれば米国経済は、かなり癒えているわけです。 それはもっといえばイグジット・ストラテジー、つまり出口戦略を考えなければいけないということです。これについては既にバーナンキFRB議長がかなり明快に方針を発表しています。


具体的に、米国の失業率が6.5%を切るまでは、量的緩和政策を維持するとしています。また消費者物価指数が2.5%を超えたら量的緩和政策をやめるかもしれないと言っています。FRBのメンバーはもともと米国の失業率が6.5%を切るのは早くても2015年と予想してきました。だから今回の発表は量的緩和政策の切り上げのタイミングが早まったとか、そういう含みは一切ありません。ただこれまで2015年という期限で投資家に説明していたのを止め、経済指標の数値を目安にする方法に改めたわけです。

そこで労働市場の動きですが、新しく失業保険を申請する人の数は趨勢としてはだんだん少なくなっています。

2

このグラフは下へ行けば行くほど良いわけです。去年の暮に数字が急増しているのはハリケーン・サンディの影響なので無視して良いです。

米国の失業率は7.8%です。

3

上で説明したようにFRBはこれが6.5%になるまでは量的緩和政策を維持すると明言しています。今のなだからなペースで失業率が改善するなら、6.5%に到達するのは相当先になりそうです。

ここまでの説明をまとめると米国は向こう2年くらいの期間でそろそろ出口戦略を模索する局面に入ります。だから今後の政策金利のベクトルとしては上、つまり引締めのタイミングを模索する局面に入ってゆくわけです。これは為替で言えば自ずとドル高のバイアスがかかるということです。ただ雇用の回復はたいへんゆっくりしていますので、急いで金利が引き上げられる要素はいまのところ、ありません。

同じく経済が強いオーストラリアもオージー高のバイアスがかかると考えられます。オーストラリア経済は中国経済と密接な関係があり、中国経済は景気循環的に上昇局面に入りつつあります。

その証拠に中国の購買担当者指数はこのところ改善しています。

4

中国経済が景気循環的な回復を見せれば鉄鉱石、石炭、エネルギーなどの輸出が今後持ち直す可能性があります。それはオーストラリア経済にとって強気要因です。

次にユーロに関してですが、景気が悪いにもかかわらず通貨ユーロが確りしているのか疑問に感じている人も多いでしょう。その最大の理由は1月からドイツの公務員組合の賃金ベースアップ交渉が始まっているからです。今回は組合側が6.5%という大幅なベースアップを要求しており、それが受け入れられる可能性も実は高いです。

ドイツの失業率は歴史的に低い水準にあります。

5

ドイツのブンデスバンクは低失業率と賃金のベースアップという二つの要因で、ドイツがインフレになることを心配しています。だからECBのドラギ総裁は一層の量的緩和政策を一時ストップしているわけです。

ドイツの賃金ベースアップの話が出たので、次に各国の消費者物価指数のグラフを見せます。

6

どの国も2013年の予想は過去10年の平均インフレ率より低くなっており、今のところインフレの心配はありません。

日本だけがデフレだったので、緩和政策を本腰入れてやれば、世界の投資家を納得させるだけのマクロ経済学的な根拠は十分あったわけです。日本は去年、貿易赤字に転落しましたが、そのことも緩和政策のクレディビリティーを高める要因になったと思います。もっと平たい言い方をすれば、解散総選挙前の為替レートでは日本の輸出企業は価格競争力が無くなっていたということです。

このグラフからわかるように各国の相対的な物価という面では日本はまだまだ円安政策で突っ走る余力があるように思います。ただ先ほどのGDPのグラフではユーロ圏の経済の低迷が著しいので、どこかで「日本だけ円安で良い思いをするのは、許せない」という議論が出てきてもおかしくないわけです。

米国の消費者物価指数の動向をもう少し詳しく見てみます。直近では物価のトレンドは下向きになっています。

7

冒頭で説明した、消費者物価指数が2.5%を超えると量的緩和政策を見直すというバーナンキ議長のコメントからすれば、いまは逆の方向へ物価が動いているわけです。ただ、過去には2.5%を超えていた期間も多かったので、むしろ雇用より物価の方が先に量的緩和政策見直しの足切りポイントに来てしまう可能性が強いことがわかります。

対比のためにユーロ圏の消費者物価も見ておきます。

8

こちらもアメリカ同様、直近の動きとしてはインフレ鎮静化の方向となっています。繰り返しになりますが、ドラギ総裁が利下げに消極的な理由はドイツの公務員組合が6.5%のベースアップを要求しているからです。もしこの要因が無ければ、今、ヨーロッパは景気が悪いので、もっと利下げされてもおかしくないわけです。

ギリシャ問題に対する不安の絶頂にあった2011年、2012年はユーロ圏の消費者物価指数が結構高かったです。このグラフで2.7%程度の水準というのは伝統的にECBにしてみれば余り居心地の良い水準ではありません。だから利下げしにくいムードだったわけです。でも今の水準、つまり2.2%というのは利下げ余地を感じさせる水準です。

別の言い方をすればドイツでの賃金ベースアップ交渉が終わって、物価の安定が確認されれば、ECBは再び緩和へ向かう可能性があるということです。