最近、シェールガスという言葉をよく聞きます。「シェールガスはゲームチェンジャーだ!」と断言する人も居ます。確かにシェールガスが出る事で米国の天然ガスの自給率は上昇します。それは米国が外国からエネルギーを買わなければいけない必要性が少し下がることを意味します。地政学的にもそれなりのインパクトがあるでしょう。

その半面、シェールガスは万能ではありません。いや、その生産手法の持つ宿命的欠点もあります。この有利さ、不利さを良く理解しておかないと、投資の際に大失敗すると思うのです。そこで今日はシェールガス関連銘柄の株式投資家の視点から、投資家が知っておくべきことを整理します。

シェールガス開発と言った場合、それは全く新しい技術を指すのではなく、これまで50年近くかけて米国の石油・天然ガス業界が培ってきた生産技術を応用することで、いままで取りにくかった場所から効率良く石油や天然ガスを汲みあげるという手法全体を指す場合が多いです。

言い換えれば、その言葉を使う人によって定義がまちまちな部分があるわけです。

曖昧さを取り除くために、地層の面と、生産技術の面のから「シェール関連」銘柄を定義します。

【地層の面からの定義】
シェール(Shale)とは頁岩(「けつがん」=泥が固まり板状になった地層)を指します。シェールガスは、そこに閉じ込められて、従来の方法ではアクセスしにくかった天然ガスを指します。なお、普通、油田には天然ガスと石油の両方がミックスされて閉じ込められている場合も多く、天然ガスの比率が多い油田はgassyと言われます。したがってシェールガス、シェールオイルという呼称は、そのミックスの、どちらの比率が大きいかで「これは天然ガス田、これは油田」という風に呼び分けているに過ぎないということです。

有名なシェールガス田としては:

イーグルフォード(メキシコの国境に近いテキサス南部)
パーミアン・ベイシン(西テキサス)
バーネット(ダラスに近いテキサス中央部)
ヘインズビル・ボシエ(東テキサスからルイジアナ州境付近)
ウッドフォード(オクラホマ州)
フェイエットヴィル(アーカンソー州、オクラホマ州)
マーセラス(バージニア州西部・オハイオ州東部・ペンシルバニア州のほぼ全域・ニューヨーク州西南部をカバーする、広範な地域)


などがあります。(上のリストは網羅的ではありません)

一方、有名はシェールオイル田としては:

バーケン(ノースダコタ州)


があります。

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【技術により定義する方法】
シェールに閉じ込められた天然ガスや石油を生産するには、以下の技術・手法が欠かせません:

1.水平掘削(ホリゾンタル・ドリリング)
2.破砕法(フラッキング、ないしはフラクチャリング)


古来の油井やガス井は、真下に向かって掘るだけでした。掘り進んで、石油や天然ガスが含まれている層にぶち当たれば、後は地面にかかる大きな圧力で、自然に原油や天然ガスが地表に噴き上げて来るわけです。

しかし長年生産を続けると、圧力が下がり、ポンプの力を借りないと、汲みあげることができなくなります。ドンキー(ろば)と呼ばれる、首振り型のロータリー・リグが使用されるのは、そういう場合です。それでも石油や天然ガスが取れなくなると、それらの井戸は休止井として放棄されました。

大手石油会社はこうして「喰い散らかした」油田を手放し、海外の大型油田を取得することに経営のフォーカスを傾けました。そのような「残りカス」の油田は、言わば氷を一杯に入れたグラスからストローでジュースを飲んで、ジュースが少なくなったので音が出る状態と形容できます。
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国際的なネットワークを持ち、潤沢な資金があるオイルメジャーは、未開の、オフショアなどの油田でホームランをかっ飛ばした方がリターンが大きいので、去ってゆきました。それらの残り物の油田を買い取ったのは、オクラホマ州やテキサス州に本社を置く、独立系の小さな石油・天然ガス会社でした。彼らは「ホームランか、三振か?」という賭けを避け、くたびれた油田を養生しながら細々と生産するというスタイルでした。

そのような先駆者の一人にチェサピーク・エナジー(ティッカー・シンボル:CHK)があります。同社の創業者のオーブリー・マクレンダンは一介のランドマン(Landman)から身を興し、一代で全米第2位の天然ガス会社を築きました。ランドマンとは、石油や天然ガスが出そうなところの見当をつけ、その土地に眠っている地下資源の利用、処分する権利(これをミネラルライツといいます)を買い取る仕事をする人です。下は最近、封切られた映画、『プロミスト・ランド』の予告編ですが、ここに登場する主人公(マット・デイモン)の役柄が、ランドマンです。

チェサピーク・エナジーは1993年2月にIPOされますが、同社は大手石油会社が「喰い散らかした」残りモノの天然ガス田をホリゾンタル・ドリリング(水平掘り)という方法で開発すると、効率良く天然ガスが閉じ込められている地層にリーチ出来るという考えを持っていました。

一旦、垂直に掘った油田のドリルを抜いた後、斜め、若しくは水平に走れる自走式ドリルを降ろして、横に広がっている天然ガスや石油が閉じ込められている地層をぐんぐん掘り進むというのが、そのやり方です。ドリルにセンサーをつけるなどの方法で、ちゃんと石油や天然ガスがある場所を貫通しているかどうかを確かめられるようになったという、技術面での進歩も、これに寄与しました。

次にクレー(平石)のようにちょっと力を入れると割れやすい石にヒビを入れることで、天然ガスや石油を流れやすくするという技術も開発されました。パーフィング・ガンと呼ばれる、発破(はっぱ)の装置です。これを地中で爆破させることで、ヒビを入れるわけです。さらに爆破した後の割れ目にプロパントと呼ばれる特殊液を高圧で流し込む事でヒビを大きくし、次にその特殊液をポンプで汲み出し、天然ガスの流れを良くするという手法も編み出されました。それらの一連の作業を破砕法(フラッキング)と言う訳です。この破砕法で、これまでシェール(Shale=頁岩けつがん→泥が固まり板状になった地層)に閉じ込められていた天然ガスも、効率的に生産できるようになったのです。


シェールの生産の問題点はホリゾンタル・ドリリングやフラッキングを実施するためには何度も縦鉱をセメントで固め、ドリルを交換し、パーフィング・ガンを降ろし、特殊液を注入し、それを汲み出すなど、とかく手間がかかるという点です。そのステップのひとつでも横着をして省略すると、効率良く生産できないのです。手間のかかる、ハイ・メンテナンスなガス田だと言って良いでしょう。その結果、操業コストはどうしても高くなってしまいます

また「喰い散らかし」された残り物の天然ガス田を開発するわけですから、それぞれの鉱区のスケールは小さいです。つまり折角、上に書いたように手間暇かけて生産しても、すぐに枯渇するということです

するとどの企業が利益を上げるか?という問題は、どのくらいテキパキ作業で出来るか?という段取りの良さ、手際の良さに大いに左右されるのです。

またそれぞれの生産ステップを「手抜きできない」ということは、逆に言えば市況が悪化したからといってコストを下げることは出来ないことを意味します。すると天然ガス価格が下落すると不採算ガス田が続出するという問題が出るのです。この部分は日本のマスコミやシェール・ブームを囃したてる論客の殆どが理解していない部分です。

実際には現在の天然ガスの市況($3.60前後)では天然ガス田への投資のIRR(インターナル・レート・オブ・リターン)は限りなくゼロに近いのです
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このため例えばヘインズビル・シェールガス田では稼働リグ数がピークの170本から現在は30本を割るところまで激減しています。

天然ガスの市況はボラティリティが高いことで知られています。ピーク時には瞬間で13ドルもしていた天然ガス価格は、シェールガスの過剰生産で一時2ドルまで下がりました。これでは全てのシェールガス・リグが赤字になってしまうのです。

現在は儲からなくて、バカバカしいリグが、どんどん休止している状況です。だから一部の「シェールガスはゲームチェンジャーになる」と主張している論客が想定しているような、シェールガス生産が右肩上がりで一直線に成長するということは、ありえません。それは経済の原理に反しているからです。

それではなぜ不採算のシェールガス田でも生産をつづけているか?という問題ですが、これは「投資家から、資金を集めてしまったから」です。その光景は、ちょうど太陽光発電の採算性が悪いにもかかわらず、株式市場でソーラー関連がブームだったので、IPOや新規参入が後を絶たなかった状況と酷似しています。

シェールガス・ファイナンスのブームを演出したバンカーはラルフ・イーズ三世という人です。彼はチェサピーク・エナジーのオーブリー・マクレンダンとはデューク大学で同じフラタニティーに属していた「御学友」です。

ラルフ・イーズ三世は石油・天然ガス・電力関連では凄腕のバンカーとして有名で、外国の大手石油会社や商社を上手く言いくるめて乗せるのが上手いことで知られています。それらの、米国の事情をよくわきまえない外国の投資家が大挙して米国のシェール業界に過剰投資したのが「ありえない安値」まで米国の天然ガス価格が下がった原因なのです。

よく日本では「日本はカタールから高い値段で天然ガスを買わされているけど、米国ではシェールガスで天然ガスが安くなっている。なぜ日本は不利な契約にロックインされているのか?」という声を聞きます。でも米国で集中豪雨的なシェール開発が起きた遠因にはインベストメント・バンカーに騙されて、中国や日本の企業がホイホイと投資資金をアメリカに持ってきた事が関係しているのです。

今後、不採算が続くと、休止井が増えます。すると天然ガスの価格は上昇すると思います。すると「米国の天然ガス価格がすごく安いから、米国から買え!」という幼稚な議論も立ち消えになります。

ブームが去れば、このセクターを顧みる投資家も減るでしょう。これはグッドニュースです。なぜならそういう素人が去り、天然ガス生産が落ち込むと、価格は上昇するからです。そのとき初めて、操業効率の良い、しっかりした生産会社がガバガバ利益を出し始めると思うのです。

まとめます。シェール関連銘柄は:

1.シェールガス田、シェールオイル田で操業している石油・天然ガス生産会社
2.上記の業者にもろもろの技術・サービスを提供している会社


という二つになりす。上で説明した歴史的経緯から、1.に属する企業はオイルメジャーのような巨大な時価総額の企業ではなく、中堅ないし中小の企業である場合が多いです。代表的な銘柄としては:

アナダルコ・ペトロリウム(APC)=米国比率はちょうど50%
EOGリソーシズ(EOG)=イーグルフォード、バーケンなど
デヴォン・エナジー(DVN)=パーミアン・ベイシン、バーネット、ヘインズビル・ボシエなど 天然ガス比率は60%
パイオニア・ナチュラルリソーシズ(PXD)=イーグルフォード、バーネットなど
サウスウエスタン・エナジー(SWN)=フェイエットヴィル、マーセラス、ヘインズビル・ボシエなど
レンジ・リソーシズ(RRC)=マーセラス、ウッドフォードなど
チェサピーク・エナジー(CHK)=イーグルフォード、マーセラス、バーネットなど
QEPリソーシズ(QEP)=バーケン、ウッドフォード、ヘインズビルなど
オアシス・ペトロリウム(OAS)=バーケン


次に2.に属する企業を列挙します:

カーボ・セラミックス(CRR)=プロパント(特殊液)
ヘルメリッチ&ペイン(HP)=陸上リグ(やぐら)のオペレーター