先週金曜日、ニューヨーク市場でギャップ(ティッカー・シンボル:GPS)が+4.85%急騰しました。「ファーストリテイリングが、狙っている」というボンヤリとした噂が出たからです。

僕はこの噂の真偽のほどは知る由も無いし、「M&A期待で、ギャップ株が妙味だ!」と言いたいのでもありません。ただ頭の体操として、このトランザクションが可能かどうか? そして若し買収が成就したあかつきには、新会社がどうなるか? についてチョッと考えてみました。

まず両社の株価収益率(PER)の差を見ます。グーグルファイナンスによると;

ファーストリテイリング 32.09倍
ギャップ 16.11倍


となっています。このことはファーストリテイリングにとってアクリーティブ(EPSにとってプラスになること)なディールをストラクチャしやすいことを意味します。(厳密には、ファイナンシングの方法などで、このソロバンは変わってきます)

次にギャップの業績を見ることにします。
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【説明】
DPS=一株当り配当
EPS=一株当り利益
CFPS=一株当りキャッシュフロー
SPS=一株当り売上高


いまギャップのCFPS÷SPSは2012年を例に取ると;

3.05 ÷ 33.05 = 0.1074


になります。つまりキャッシュフロー・マージンは10.74%です。いつも言っている事ですが、全米平均のキャッシュフロー・マージンは11.9%です。つまりギャップはそれより悪いわけです。


ただ、ギャップの場合、アパレル小売業なので、一般にアパレル小売業はこの数値が他の業種より低いです。実際、主な米国のアパレル小売業のキャッシュフロー・マージンは10.7%であり、ギャップはその中では平均点的な存在です。
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一方、ファーストリテイリングの場合、キャッシュフロー・マージンは大体18%くらいだと思います。つまりルルレモンとかバックルのような、いまアメリカでもっとも元気なアパレル小売業者に匹敵するわけです。

ギャップの場合、2011年にコットン価格の高騰で材料コストが上昇し、業績を悪化させました。今はその失敗から立ち直っています。この事件はギャップのコットンへの依存が、米国のアパレル小売業者の中でもとりわけ高いことを投資家に印象付けました。それはものすごく意地悪な見方をすれば、ファブリックやマーチャンダイジングの面で、ギャップは保守的すぎて、イノベーションが足らないと言えるかも知れません。

ギャップのバランスシートを見ると12億ドル程度の負債が載っています。インタレスト・カバレッジは19倍です。また18億ドルのキャッシュならびに準キャッシュもバランスシートに載っています。このバランスシートは保守的ですが、もともとアパレル小売業者はバランスシートが保守的なところが多いので、特に優等生というわけでもないと思います。

ギャップの店舗数は2012年末で3,062店舗で、これは2011年とほぼ同じです。2013年はネットベースで10店舗程度増えると予想されますが、売り場面積は不変を想定しています。

一方、ファーストリテイリングの総店舗数はグローバルで関連会社も含めて2,222店舗です。ユニクロの米国の店舗数は2012年度末で3店舗、今年はあらたに4店舗がオープンされる予定です。

このようにストア的には両社のオーバーラップは殆ど問題にならないわけです

ギャップの買収は、一気に米国市場でのプレゼンスを高めるという意味では有効だし、既にモールに専門店がひしめいている状況にあって、すべてのロケーションでギャップと激突するのは両社のターゲット顧客層が似ていることを考えると必ずしも得策ではないかもしれません。

その意味ではギャップを買収した後、ギャップの売り場内にユニクロのコーナーを設け、次第にミックスをユニクロ中心にシフトしてゆく方が理に叶った戦略なのかも知れません。

ところでファーストリテイリングはADR(米国預託証券)を出していないようだけど、米国の取引所に同社株が上場していないのは株式交換による買収を困難にするので戦略的な選択肢が限定されます。

社内英語公用化を促進し、海外戦略を積極的に進めている同社としては、なぜADRすら出していないのか、理解に苦しみます。

僕が未だバンカーやっていれば「ADR出しませんか?」と、真っ先に営業しているでしょうね。