ペンシルバニア鉄道時代のアンディ・カーネギーは、機関車をどんどん大型にし、牽引する客車や貨車の数をどんどん増やすことを提案します。なぜなら、そうした方がコストが安くなるからです。

また電信室を24時間オープンにし、常にコミュニケーションがとれるようにしました。さらに保全要員のストライキを禁止し、鉄道会社の中に密告者を配置し、ストの準備を未然に封じこみました。

カーネギーはトーマス・A・スコットから投資についても学びました。当時、鉄道は西へ西へとどんどん伸びていたので、いずれ鉄道が敷かれる予定の土地に先回りして投資しておけば、儲かるわけです。

このようなサイドインベストメント(小遣い稼ぎの投資)もいろいろやりました。その代表例がウッドルフ寝台車への投資です。鉄道が遠くへ延び、列車に乗っている時間が長くなると、快適な鉄道の旅への需要が増えると見越したためです。

カーネギーは定期的に架け替える必要のある木製の橋を処分し、全部鉄橋にすることを提案します。このとき鉄橋建設に関わったことで鉄のビジネスに関心を持ったわけです。

カーネギーは色々な投資から上がる副収入で、ペンシルバニア鉄道を12年後に辞めたときには、本業の月給から来る収入は、彼の全収入の5%のみで、後は全部、サイドビジネスから上がる利益という状態になっていました。そこでペンシルバニア鉄道でサラリーマンを続けることは貴重な自分の時間の無駄遣いだと気付き、花形企業のペンシルバニア鉄道を辞めます。

カーネギーはその後、ニューヨークへ行き、当時最もオシャレなホテルのひとつであったセントニコルズ・ホテルに長期投宿し、「これからは勉強をする!」と宣言します。なぜなら彼は生活のため12歳で学業を放棄せざるを得なかったからです。

そしてアンディは英国の学者、ハーバード・スペンサーに傾倒します。スペンサーは「サバイバル・オブ・ザ・フィッテスト(適者生存)」を提唱します。この考えに感化されたアンディは「光明が差し込んだ」と言い、それまで漠然と自分が感じていた、競争のメカニズムを体系的に理解することになります。

それは現代風に言えば、コモディティ色の強いビジネスでは、ローコストの業者が必ず勝つという法則に他なりません。これは今でこそビジネス界の常識ですが、当時はごく一部の実業家だけがそのような洞察を持っていました。

Bessemer_converterカーネギーは休暇で英国を訪れた際、当時開発されたばかりのベッセマー法を見学し「これだ!」と悟ります。それまでの鋳鉄の方法は一度に少量の鉄しか生産できないだけでなく、不純物が多く混じるため、強度や長持ちの点で不満が残りました。

しかしベッセマー法だと不純物を取り除けるだけでなく、今までとは比べ物にならないスケールで、大量に製鉄できるのです。そこでアンディはベッセマー法の溶鉱炉に大型投資を実行します。

1855年にヘンリー・ベッセマーがベッセマー法を考案する以前は世界でダントツに粗鋼生産高の大きかった英国ですら、生産量は6万トン程度でした。しかし19世紀の終わりまでには3,000万トンに迫る生産高に達するのです。この大増産時代の真っ只中で、誰よりも果敢に投資を推し進めたのがカーネギーであり、彼の成功の秘訣は誰よりも安いコストで鉄鋼を生産し、そのためには生産過程のひとつひとつで徹底的なコスト管理をし、さらにスケール・メリットを最大限に享受するために誰よりも大きな設備を持つというものでした。


なおベッセマー法による大型溶鉱炉がどんどん建設された1870年以降の30年間は卸売物価指数は一貫して下がり続けました。これはエドワード・デューイの「コモディティ価格の54年サイクル」のベア局面に、ぴったり一致します。

1873年にジェイ・クック商会が破綻し、金融パニックが起こるとアンディをペンシルバニア鉄道に引っ張った先輩で、商売の師匠でもあったトーマス・A・スコットが個人破産の危機に瀕します。なぜなら彼が投資していたテキサス&パシフィック鉄道の手形が不渡りになりそうになったからです。

トーマス・A・スコットは、かつての後輩で、自分の愛弟子であるアンディに「金を貸してくれ!」と嘆願します。しかしベッセマー法の溶鉱炉に目一杯投資してしまっていたカーネギーは「融通出来ない」と、これを断ります。結局スコットは破産します。

なお、この時のカーネギーの拒絶には「貸そうと思えば、貸せない額ではなかった」とする学説もあります。それによるとカーネギーが先輩の嘆願を黙殺した理由はスコットがピッツバーグ・ジャーナルの発行人の娘、アニー・デューク・リドルと結婚したからだというわけです。アンディはアニー・リドルに好意を抱いており、トーマス・A・スコットに「彼女と結婚したいと思うけど、どうか?」と相談を持ちかけます。ところがアニー・リドルを一目見て、スコットの方がアニーを気に入ってしまい、彼女を横取りしたというわけです。