“Popularity breeds contempt.(人気はdisりを招く)”というのは英国のポップバンド、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージの金言です。

塚本高史を起用した印象的なCMの効果もあり、自分年金積立サービス「いつかはゆかし」が注目されています。

世間から注目されるということは、いろいろ詮索されるタネを蒔くことに他なりません。

一部ブロガーから「いつかはゆかし」へのツッコミが、風評被害をもたらしたということで、とうとう「訴訟も辞さぬ」というところまで対立がエスカレートしました。僕が「いつかはゆかし」という商品に関心を持ったのは、その時点からです。

正直言って、ボク的には「いつかはゆかし」の第一印象は、悪かったです。

まずホームページ上の案内の仕方が、誤解を招きやすいと思いました。早い話、てっきり海外のヘッジファンドを案内するサービスなのかと思ってしまいました(笑)

言い換えれば、肝心な部分が秘密のベールに包まれていて、金融商品の意匠が消費者に分かりにくいのです。

また「1億円」、「5万円」、「10%」などの切りの良い数字ばかりが羅列されているのは、業界の内部の人間からすれば、そこに他意が無かったとしても、それだけで「怪しいな」と思われても仕方がないのです。なぜなら、我々業界の中の人間は、日頃から「切りの良い数字には、気をつけろ!」と教えられてきたからです。

じっくりホームページを読むと、何も約束していないし、断定的な箇所はありません。つまり不適切な部分は、無いのです。

ただ、全体として「いつかはゆかし」の広告を見て、ホームページを読むと、あたかも簡単に1億円が貯められるような印象を与えてしまっているわけです。

そんなわけで、ボクのアブラハム・プライベートバンクに対する第一印象は苦々しいものでした。

しかし……

調べてゆくうちに「いつかはゆかし」という金融商品の持っている美点というか、或る種のエレガンスさは、認めざるを得ないなと思いました。

「いつかはゆかし」はロンドン証券取引所に上場しているハンサード・グローバルPLCという金融サービス会社が提供している多言語対応のオンライン・ラップ口座プラットフォームを利用した、積み立て商品です。

これは、ホワイトラベルと理解できると思います。ホワイトラベルはFXなどの世界では広く普及している事業形態です。

そもそもラップ商品の良い点とは、証券マンの「回転商い」の誘惑から、消費者を守ることが出来るという点にあります。なぜなら年間のアドバイザリー・フィーが徴収される代わりに、個々の商品の乗り換えの度ごとに手数料がかからないからです。

「いつかはゆかし」のアドバイザーは米国で言えば、IFA(独立フィナンシャル・アドバイザー)のイメージに近い役回りだと思います。

IFAの仕事においては、単に顧客のフィナンシャル・ニーズ(=例えば年齢や、扶養家族の有無や将来予想される出費etc.)を理解するだけでなく、顧客の投資目的を具現化するためのツールとなる個々の投資先(=その多くは投信だと思います)の商品性を深く理解することが要求されます。(実は、この部分で大多数の日本のフィナンシャル・アドバイザーは、完全に「落第」です)

IFAの豊富な知識と、良識を、「いつかはゆかし」の顧客との間で定期的に共有し、その対話の中から最適なポートフォリオを組んでゆくという事自体は、とても良いことであり、また今の日本の金融サービス業に絶望的に欠けている部分です

日本でフィナンシャル・アドバイザーという仕事が結局、開花しなかった最大の理由は、彼らが顧客の投資目的を具現化するための道具立てに、余りにも注意を払わなかったことにあります。

この一点だけをとっても「いつかはゆかし」は画期的なブレイクスルーだったと評価できると思います。


ただ、「いつかはゆかし」に関しては、釘を刺しておきたい事があります。ウォール街では:

Under-promise, over-deliver. (約束は控え目に、そして期待以上の働きを!)


としばしば言われます。つまり大風呂敷を広げると、後でとんでもないしっぺ返しを消費者や投資家から受けるのです。

これは、何も金融サービスだけに限った事ではないと思います。例えばBLOGOSだって然りです。僕は自分自身をジャーナリストだとは思いません。僕は、あくまでもブロガーであり、それ以上でも、それ以下でもないのです。

本来、記事の正確さや公正さを確保するだけのデュー・デリジェンスや綿密な下調べが出来ないにもかかわらず、自分を「ジャーナリストだ」と錯覚するのは、痛いのを通り越して危険ですらあります。でもそのへんをはき違えている印象を、僕はしばしばBLOGOSから受けます。

Pseudo journalism が自己実現してしまって、残念な結果を生むリスクについては、確か『Media Makers』にもちゃんと言及してあった筈。

だから大風呂敷を広げないということは、「いつかはゆかし」にとっても、BLOGOSにとっても、Market Hackにとっても、等しく重要な事です。

次に、消費者からの信頼はおカネで買うものじゃないという点です。

「いつかはゆかし」の場合、塚本高史の「刺さる」CMが功を奏して、消費者の間での認知度が高まったと思います。でも認知度の高まりはコンピタンスの証明とは、なんら関係はありません。消費者からの信頼は汗水たらして顧客に尽くす事でearnするものなのです。

この点に関しても、僕は「いつかはゆかし」だけを責めたいとは思いません。一例として、BLOGOSだって同じ間違いを犯しかねないと思います。最近、BLOGOSのサイトはリニューアルして、ブロガーのつけた記事の見出しが、そのまま反映されるようになりました。その結果、見出しの煽りは、かなりトーンダウンしました。しかし昔はほぼ全ての記事がBLOGOS編集部によって短いヘッドラインに編集されていた関係で、PV稼ぎ的な煽りが目に余りました。(そういう僕も、同罪ですがW)

ただ、そのようにして安易な方法で稼いだPVは、クウォリティの高い読者の獲得には寄与しないのです。

マーケティング上手は金融サービスにもウェブ・サービスにも重要だとは思うけど、最終的には中身の無いヤツは消えてゆくと思います。その意味でも「期待以上の働きを!」という点を心掛けてほしい気がします。

それから金融商品の案内の際、フェアであるべきだと思います。テレビCMを打っているということは、適格投資家(富豪層)ではなく、一般投資家を巻き込んでいるわけですから、商品の匿秘性のプライオリティーは、明らかに後回しにされるべきです。むしろ商品設計の透明性、ならびに曖昧さを排したコミュニケーションに努めるべきです。それは図で説明すると下のようになります。

透明性

つまり100人以下の顧客を相手にするヘッジファンドのような商品の場合は、プライベート性が高く、その分、匿秘性は高くでも構わないけど、幅広い一般消費者にアプローチすればするほど、透明性を確保する必要があるということです。

またハンサード・グローバルPLCのプラットフォームに依拠したサービスになっているという点は、単に満足なパフォーマンス(投資成果)が出なかったというリスクだけではなく下に赤字で示したような色々なリスクがあると思います。

リスク

そのへんの開示も、しっかりやるべきです。