Too much of a good thing(良いことも、度が過ぎると……)
これは英語圏で良く使われる格言です。シェークスピアの『お気に召すまま』で使われたことが、この表現が流行った原因だと思います。
キプロスは地中海に浮かぶ島ですが、オフショア・バンキング・センターとして栄えていました。特にロシアの裕福層のおカネが流入してGDPの800%もの預金が集まったと言われています。
普通、小口銀行預金は銀行の貸付原資として極めて強固な資金源(ファンディング・ソース)です。なぜなら市場からおカネを調達してきた場合は、金融市場の乱高下に銀行の貸付能力が翻弄されるわけですが、小口銀行預金(リテール・デポジット)は、めったなことで流出しないからです。
そんなわけでキプロスにどんどん預金が集まったことは、同国の弱さではなく、強さだと、ずっと考えられてきました。但し、それは、キプロスの銀行が、保有していたギリシャ国債で大損を出すまでの話です。
キプロス国内にはこれといった貸付先はありません。だからキプロスはどうしても国外に運用先を求める必要がありました。キプロスは歴史的にギリシャとつながりがあります。その関係で運用の場面でも、当然、ギリシャ国債を組み入れたわけです。このしくじりで、自己資本の少なからぬ部分を吹き飛ばしてしまったのです。
これは英語圏で良く使われる格言です。シェークスピアの『お気に召すまま』で使われたことが、この表現が流行った原因だと思います。
Rosalind: Why then, can one desire too much of a good thing? Come, sister, you shall be the priest and marry us. Give me your hand, Orland. What do you say, sister?
キプロスは地中海に浮かぶ島ですが、オフショア・バンキング・センターとして栄えていました。特にロシアの裕福層のおカネが流入してGDPの800%もの預金が集まったと言われています。
普通、小口銀行預金は銀行の貸付原資として極めて強固な資金源(ファンディング・ソース)です。なぜなら市場からおカネを調達してきた場合は、金融市場の乱高下に銀行の貸付能力が翻弄されるわけですが、小口銀行預金(リテール・デポジット)は、めったなことで流出しないからです。
そんなわけでキプロスにどんどん預金が集まったことは、同国の弱さではなく、強さだと、ずっと考えられてきました。但し、それは、キプロスの銀行が、保有していたギリシャ国債で大損を出すまでの話です。
キプロス国内にはこれといった貸付先はありません。だからキプロスはどうしても国外に運用先を求める必要がありました。キプロスは歴史的にギリシャとつながりがあります。その関係で運用の場面でも、当然、ギリシャ国債を組み入れたわけです。このしくじりで、自己資本の少なからぬ部分を吹き飛ばしてしまったのです。
今回、なぜ欧州連合(EU)が株式や劣後債などの保有者に加えて、一足飛びにキプロスの預金者のおカネに手を付けたかといえば、通常の銀行の資本再構成(つまりリストラ)で犠牲になるべき株式や劣後債の投資家の出資金を、遥かに超えた額がヤラレになってしまっていて、有り体に言えば「そこしか掠め取る先が残されていなかった」からです。
小口預金(リテール・デポジット)は、我々個人投資家からみれば、利子を生む「運用先」と考えがちですが、それは同時に個人が銀行の債権者、つまりおカネを貸している立場になっているのです。
さて、日本も銀行の小口預金の比率が高いことで知られています。
繰り返して言えば、小口預金が銀行の貸付原資になっているということは、良いことです。それは歓迎すべきことなのです。だから僕はそれを批判するつもりは、全くありません。
ただ皆さんが気をつけておかねばならないことはToo much of a good thingという問題です。
キプロスの銀行がギリシャ国債で取り返しのつかない損を蒙ったように、若し日本の銀行が何かの拍子に損を出したら……
そういう、ありえないシナリオも一応、考慮に入れておくのが、思慮深い投資家のする行動だと思うのです。
そこで日本の金融市場の構造を見ると、下のグラフのようになっています。

このグラフを見て、まず目に飛び込んでくるのは日本国債(JGB)の大きさです。GDPの218%となっています。
その一方で、日本の金融債(銀行などが出す債券)は、とても小さいです。この部分は通常のリストラの際にいろいろいじられる部分であり、その絶対額がこのように極めて小さいということは、次のレイヤー(それは我々の預金に他ならないわけですが)に手がつけられるまでのクッションが小さいことを示唆しています。
日本の金融機関は明示的、暗示的なプレッシャーから、日本国債を買え!と強いられています。若し、日本の景気がどんどん良くなって、債券が売られた場合、債券ポートフォリオから大損が出るようだと日本の金融機関はポートフォリオの中の債券の比率を下げる必要に迫られるかもしれません。
あ、それからついでに言うと、日本政府は歳出の約半分程度しか税収がありません。皆さんが友達におカネを貸す時、彼が月給の2倍のおカネを使って、遊びまわっていたら、どう感じますか? たまたま今は「貸してあげるよ」という友達が多いから、うまく物事が回っているわけだけど、カレよりもっと魅力的な投資先(例えば最近、モリモリ盛り返している、日本株)が登場すると、誰からも顧みられなくなるリスクだって、無いとは言えません。
いま日本の金融セクターは世界的に見て、とても国際化が進んでいません。

これは良いことです。なぜなら気まぐれな海外からの資本に依存する度合いが低いからです。でも逆の見方をすればToo much of a good thing…というのは、ここにも当てはまります。なぜなら日本が若し困った場合、外国はお付き合い程度にしか日本に救いの手を差し伸べないことは明白だからです。
するとキプロスの銀行がそうであったように、通常の銀行の資本再構成(リストラ)の際にターゲットにされる、株式や金融債などの保持者への攻撃が終われば、早晩、預金者という名前の債権者である我々小口投資家の虎の子が狙われる可能性も、無いとは言えないのです。
このように投資に際しては日頃から「異常な偏り」に気を付ける習慣を身につけておくべきです。今の日本の金融機関はJGBを偏重しており、また我々国民の小口預金にあぐらをかきすぎています。
【広瀬隆雄の本】

いきなりニューヨークで面接しろと言われても、困ります (ニューヨーク三部作) [Kindle版]
小口預金(リテール・デポジット)は、我々個人投資家からみれば、利子を生む「運用先」と考えがちですが、それは同時に個人が銀行の債権者、つまりおカネを貸している立場になっているのです。
さて、日本も銀行の小口預金の比率が高いことで知られています。
繰り返して言えば、小口預金が銀行の貸付原資になっているということは、良いことです。それは歓迎すべきことなのです。だから僕はそれを批判するつもりは、全くありません。
ただ皆さんが気をつけておかねばならないことはToo much of a good thingという問題です。
キプロスの銀行がギリシャ国債で取り返しのつかない損を蒙ったように、若し日本の銀行が何かの拍子に損を出したら……
そういう、ありえないシナリオも一応、考慮に入れておくのが、思慮深い投資家のする行動だと思うのです。
そこで日本の金融市場の構造を見ると、下のグラフのようになっています。

このグラフを見て、まず目に飛び込んでくるのは日本国債(JGB)の大きさです。GDPの218%となっています。
その一方で、日本の金融債(銀行などが出す債券)は、とても小さいです。この部分は通常のリストラの際にいろいろいじられる部分であり、その絶対額がこのように極めて小さいということは、次のレイヤー(それは我々の預金に他ならないわけですが)に手がつけられるまでのクッションが小さいことを示唆しています。
日本の金融機関は明示的、暗示的なプレッシャーから、日本国債を買え!と強いられています。若し、日本の景気がどんどん良くなって、債券が売られた場合、債券ポートフォリオから大損が出るようだと日本の金融機関はポートフォリオの中の債券の比率を下げる必要に迫られるかもしれません。
あ、それからついでに言うと、日本政府は歳出の約半分程度しか税収がありません。皆さんが友達におカネを貸す時、彼が月給の2倍のおカネを使って、遊びまわっていたら、どう感じますか? たまたま今は「貸してあげるよ」という友達が多いから、うまく物事が回っているわけだけど、カレよりもっと魅力的な投資先(例えば最近、モリモリ盛り返している、日本株)が登場すると、誰からも顧みられなくなるリスクだって、無いとは言えません。
いま日本の金融セクターは世界的に見て、とても国際化が進んでいません。

これは良いことです。なぜなら気まぐれな海外からの資本に依存する度合いが低いからです。でも逆の見方をすればToo much of a good thing…というのは、ここにも当てはまります。なぜなら日本が若し困った場合、外国はお付き合い程度にしか日本に救いの手を差し伸べないことは明白だからです。
するとキプロスの銀行がそうであったように、通常の銀行の資本再構成(リストラ)の際にターゲットにされる、株式や金融債などの保持者への攻撃が終われば、早晩、預金者という名前の債権者である我々小口投資家の虎の子が狙われる可能性も、無いとは言えないのです。
このように投資に際しては日頃から「異常な偏り」に気を付ける習慣を身につけておくべきです。今の日本の金融機関はJGBを偏重しており、また我々国民の小口預金にあぐらをかきすぎています。
【広瀬隆雄の本】

いきなりニューヨークで面接しろと言われても、困ります (ニューヨーク三部作) [Kindle版]