日本時間の3月23日早朝、キプロス議会が銀行整理法案と資本規制法案を可決しました。しかし、これらの措置を講じることで、欧州中央銀行(ECB)から緊急流動性支援プログラム(ELA)の延長を取り付け、本当に危機が回避できるのかは、まだ混沌としています。

銀行整理法案とは、不健全な銀行を、いわゆるグッドバンクとバッドバンクに分割し、すみやかに出血を止める決断を下す権限を中央銀行に委ねるという法案です。

資本規制法案とは、一度に電信振替などでおカネを持ち出せる金額を制限することで、怒涛の如く預金が流出することを防ぐ法案です。

またキプロス政府は連帯投資基金(Solidarity fund)を設立し、そこへ地中海沖の天然ガス田の権益や年金ファンドの資産などを移管し、その信用力を背景に資金調達するというスキームも進めています。

これらの方策は、それなりの効果が期待できなくは無いですけれど、これで本当にキプロスが危機を乗り切れるのかどうかは、わかりません。

そもそもキプロスの問題がこじれた主因は、欧州中央銀行が100億ユーロの支援金をキプロスに貸し付けるにあたって、その前提条件として示された「あなたの方でも何とか58億ユーロを捻出しなさい。そのためには預金税というカタチで、10万ユーロ以上の大口預金者には9.9%、それ以下の小口預金者には6.75%の税金を課しなさい」という提案を、キプロス議会が否決したことに端を発します。

欧州連合側は、依然として58億ユーロというキプロス側の負担額にこだわっており、銀行整理法案、資本規制法案、連帯投資基金といった、キプロス側の示した善後策では不十分だという印象を持っているわけです。


実際、資本規制法案を実行した場合でも、預金がじりじりと失われれば、銀行倒産回避に必要となる、キプロス政府負担分の金額は、当初の58億ユーロではなく、むしろ68億ユーロか、それ以上に雪だるま式に増えてしまうだろうという見方もあるのです。

従って、銀行整理法案、資本規制法案、連帯投資基金という三つの対案を示したにもかかわらず、結局、キプロス政府は「もう一度預金税を見直しなさい」と振り出しに戻ってしまう可能性もあるのです。

キプロス議会は(欧州連合が示した預金税を、最初から可決しておけばよかった……)と、今になって後悔しています。従って、何らかの預金税が月曜日までに発表される可能性もあります。

また銀行整理法案、資本規制法案、連帯投資基金というそれぞれの法案が、どういう順番で速やかに実行に移されるか? というタイミングの問題もあります。なぜなら問題になっている大手銀行のひとつ、ライキバンクがグッドバンクとバッドバンクに分割された瞬間に、ライキバンクの預金者は預金の40%を失ってしまうと試算されているからです。

さらに細かい話をすると、銀行整理法案は、民間銀行をキプロス中銀が、その一存でテイクオーバーする「強権発動」の権限を与えるものであり、これは政府権力の濫用につながるおそれもあります

また連帯投資基金の設立は、本来、国民に帰属するはずの年金ファンドを政府が勝手に接収し、その財産を勝手に処分することにつながるかも知れません。

つまり緊急時の危機回避の名の下に、キプロス政府は独裁的とすら言える権力の集中を獲得するわけです。


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