今日アマゾンのジェフ・ベゾスがウェブ・ニュースメディア、ビジネス・インサイダー(Business Insider)500億500万ドル出資すると発表しました。

ビジネス・インサーダーは2007年にケビン・ライアンと元メリルリンチのインターネット・アナリスト、ヘンリー・ブロジットによって創業されたニュースサイトです。言わば、ハフィントンポストのビジネス版のようなサイトです。

ビジネス・インサイダーのMUU(マンスリー・ユニーク・ユーザー)数は2,700万人で、ビジネス系サイトとしてはウォールストリート・ジャーナル、フォーブス、ブルームバーグに次ぐ規模です。但し同サイトのトラフィックの3分の1は海外であり、広告営業する際は対象にカウントできないので、ブロジットはビジネス・インサイダーの公式MUUを900万人と低めに報告しています。

ウォールストリート・ジャーナルは1,700人のスタッフを抱えているのに対し、ビジネス・インサイダーは50人のスタッフであり、コスト構造は根本的に異なります。

ビジネス・インサイダーに対するこれまでの累積投資額は1,800万ドルで、今回のベゾスの投資は同社の時価価値を5,000万ドルと評価しています。なお2012年現在、ビジネス・インサイダーは赤字経営で、年間赤字額は300万ドルです。ビジネス・インサイダーの売上の85%は広告収入です。

今日、このニュースが出た時、マスコミはどちらかというとこのベゾスの投資に批判的でした。その典型がビジネスウイークで、次のように報じています:

To Henry Blodget and his team at the six-year-old online news startup: congratulations.
To the rest of the technology and news world: condolences. I imagine this is a little bit like finding out your favorite author watches daytime soaps.
ヘンリー・ブロジットならびに6年目のオンライン・ニュース・スタートアップのメンバーにはおめでとうと言いたい。だがその他のハイテクならびにニュース業界関係者に対してはおくやみをもうしあげたい。これは言ってみればあなたのお気に入りの作家が、どんな昼メロを視ているかを発見してしまったときのような落胆だ。


まあビジネスウイークがビジネス・インサイダーをdisりたくなる気持ちもわからないでもありません。

なぜならピュー・リサーチ・センターによれば新聞の広告市場はデジタル広告市場の市場成長率の7倍の速度でしぼんでいるからです。もちろん、旧メディアに属するビジネスウイークも苦戦しています。 

ビジネス・インサイダーやハフィントンポストの登場で、従来のようなじっくり時間をかけて取材したinvestigativeな記事は余り顧みられなくなりつつあります。なぜなら消費者のニュースに対するアテンション時間がどんどん短くなっているからです。 通常、読者はひとつのサイトで四分しか滞在しません。すると長尺記事を書いても、殆ど読まれないわけです。

ケビン・ライアンは「スクープなんて、全く意味無いよ。なぜなら取材するのにまるまる二日を要するからね。でもそれが記事になったら、四分後にはビジネス・インサイダーがその内容をかいつまんでUPするからね」と言っています。 

今週はビジネス・インサイダーに注目が集まる、もう一つの材料がありました。それはベストセラー作家、ケン・オーレッタが雑誌『ザ・ニューヨーカー』でビジネス・インサイダーに関する長尺記事を書いたからです。ケン・オーレッタは『ウォール街の欲望と栄光』の著者です。 『ザ・ニューヨーカー』の記事の中でオーレッタはブロジットの言葉を引用しています:

我々は事実上、テキスト版のお喋りラジオ番組みたいなものだ。三十分ごとに新しいネタが入って来る……それを適当にアレンジする……そして(はがき職人みたいな)視聴者からのリアクションをミックスするのさ


ビジネス・インサイダーはビジネス・ニュースにユーモアの要素を意識的に混ぜました。そして報道と言うより、読者とのだべり的な感覚を大切にしています。つまり終わることの無いビジネスDJのトークショウのようなものです。

既存のニュース・メディアの側からすれば、折角、足を使って調べ上げて、苦労して記事にしたニュースを、ネタ風にアレンジされて、それでページビューを稼がれて、広告を横取りされたら、たまったものではありません。ベゾスのビジネス・インサイダーへの投資は、だからアマゾン・プライムのビデオ・サービスでオリジナルの映画を製作するのと同様な中抜きの試みなのではないか? という警戒心を誰もが持つわけです。

しかしニュース・メディアの消費のされ方を考えた場合、ニュースの「発見の経路」はこれまでのようにブックマークしたサイトに訪問し、ニュースを読むのではなく、Facebookなどで友達が紹介したニュースをクリックし、それを読み、さらにそれを自分のタイムラインでシェアする……というビヘイビアに移行しつつあります。

これは極めて重要なトレンドです。

なぜならSNSのユーザーは昔は「自分はどんなクルマに乗っている」とか「どんな高級ホテルに泊まっている」ということをシェアすることで、自分が誰であるかを知人、友人たちにシグナルしていたわけですが、モノへの関心が薄れ、しかも友人のコミュニティから一目置かれる存在になるためには、「オレはこのニュースに関心を持っている」ということを示すことで、自分をアピールするようになってきているからです。

これは『The Presentation of Self in Everyday Life』でアーヴィング・ゴフマンが主張した、理想の自分像の演出のための小道具として、ますますニュースのシェアが使われ始めていることに他なりません。つまりコーチのバッグのような、「アクセサリーとしてのニュース」です。

The Presentation of Self in Everyday Life
The Presentation of Self in Everyday Life [ペーパーバック]