安倍政権が打ち出した緩和政策で世界がミセス・ワタナベの動向に注目しています。

「ミセス・ワタナベって、何?」と思っている読者も多いと思うので、外人から見た説明を載せておきます:

In the context of the Japanese economy, Mrs. Watanabe is generic, collective names for housewives who deals in foreign exchange.
(Wikipedia)
日本経済の文脈でミセス・ワタナベといえばFXをトレードする主婦のグループを指す。

A personification of the Japanese housewife speculators, who are strong enough to affect international markets, especially foreign exchange markets.
(Wiktionary)
日本の主婦投機家の擬人化。彼女たちが集団で動けば国際金融市場、とりわけFX市場を動かすほどの力を持つ。


こうしたカリカチュア(戯画)は、別にミセス・ワタナベだけに限った事ではありません。チューリッヒの小鬼(Gnomes of Zurich)、ベルギーの歯医者(Belgian Dentists)、オマハの賢人(Oracle of Omaha)などの表現があります。

それではミセス・ワタナベの実力のほどは、どうなのだ? という事ですが、現在の手口として、どれだけ活発か? という事ではなく、その潜在性にこそ、世界の投資家は恐れをなしているのです。

下は家計のポートフォリオを示したグラフですが、日本の場合、銀行預金が圧倒的に大きいです。

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殆ど利子すらつかない預金に、これだけ膨大な資金が遊ばせてあることは海外の投資家から見れば理解に苦しむ事だし(これが動き出せば、怖いぞ)と思う訳です。もちろん、今までは1990年以降、ずっと日本株がベア・マーケットだったせいで、日本人の目からすれば預金に遊ばせておくという選択は間違っていませんでした。またデフレ下ではキャッシュ(預金)の価値は減価しません。


ただ、今後、アベノミクスがインフレの演出に成功すれば、キャッシュは減価するリスクがあるわけです。

そこでミセス・ワタナベが今、殆ど円で持っている預金の一部を海外に移し始めたら……外人投資家はそういうシナリオを妄想し、コーフンしているわけです。

実際、「若しミセス・ワタナベが来るのなら、なにもFRBがトレジャリーを買い支える必要は無い。だからQE(量的緩和政策)は、早目に切り上げた方がいいんじゃないか?」という議論は、アメリカでは真面目に出ています。

そこで問題になるのは、ミセス・ワタナベのお金が何処へ向かうか? です。

今はリスクを取って海外の債券などに投資しようというミセス・ワタナベは少数派なので、そういう「豪の者」のお金は最もリスキーなトルコ債や南ア債などに向かいがちです。ただ日本に遊んでいる資金量とそれらの新興国の債券市場ないしは為替市場の規模を比べると、これはもうハナクソ程度の小ささです。するとミセス・ワタナベのマネーがそれらの市場に介入すると、一瞬のうちに為替が動き、ホットマネー化するわけです。

それは最初に動いた投資家にとっては良いことかも知れないけれど、後から慌てて参入した「遅れてきたミセス・ワタナベ」は、投資資金が逆流したとき、為替の急落で痛い目に遭います。

実際、日本の海外投資は、そんな砂漠に水をやるようなムダの繰り返しだったのです。これは「キャッチフレーズ的に、これはウケそうだな」という発想から商品設計する日本の証券会社や投信会社に責任があります。彼らは目をひきやすい「利回り○%」などの表現で、そういう本来大規模キャンペーンに向かない商品を、販路に乗せてしまうのです。

僕が若し日本の投信や証券会社の投信事業部の商品企画の担当者なら、もっとデカイ流動性がある市場で、なおかつ割安放置されているアセット・クラスに注目します。例えば下のグラフです。

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スペインやイタリア国債はリスキーだと誰からも思われています。その関係で利回りは4%以上が出ている……でも日本の投信会社は国際債券ポートフォリオの中にこれらの国の債券が含まれていることを、まるでイケアの食肉に混入した馬肉の如く、徹底的に排除しようとしている(笑)

でも考えても見て下さい、高利回り国の債券ファンドに投資したときのヤラレの少なからぬ部分はその投資対諸国の為替が高くなり過ぎ、その結果として慌てて引締めした際にリパトリエーション(資金引き揚げ)が出るなどの原因でもたらされているのです。

スペインやイタリア国債の場合、為替はユーロですから、小さな新興国の為替より変動はマイルドです。

またスペインやイタリア国債が若し急落すればドラギECB総裁がOMTと呼ばれる買い支えを実施すると公言しています。

まあ「スペインやイタリア国債はどうか?」という議論は、あくまでも余談に過ぎないわけで、要するに商品設計の工夫は、いくらでも出来ますよということを僕は言っているわけです。