【まとめ】

■個人メディアに必要なこと■

Domain excellence(専門分野の情報で、抜きん出ていること)
Your edge vis-à-vis old media (既存の専門誌と、どこが違い、何が新しいのか?)
Community(コミュニティ)


【名指しにされて】
堀江貴文氏がおつとめを終えてシャバに戻ってきて以来、「個人メディア」なる造語を目にする機会が多くなりました。たとえばこれ:

ノマド論:脱サラしてパーソナル・メディアで生計を立てようと考えている人へ

読んでみると「ふむふむ」と頷ける部分も、無いとは言わない。

でも僕としては(えっ、これっぽっち?)という喰い足らなさを感じました。

あ、偉そうなコト言って、すみません。

最初に断っておくと、僕は自分のこと、Market Hackのことを「個人メディア」だという風には、思っていません。ジャーナリストでもない。センセイでも、カリスマ・トレーダーでもない。

あくまでも、単なるブロガー。

「じゃあ一体何だい、 このMarket Hack編集長ってタイトルは?」

そう読者の皆さん思われるでしょう。

じつはLINE株式会社(当時はライブドア)と金融系ブログメディアを立ち上げるにあたって、仕掛人の田端信太郎氏に「ん? なにこの編集長って……オレって、編集長なの?」と訊いたのです。

「ええ、何かとその方が、通りがいいですから」彼はそんな、わけわかんないことを口走って、するりとその場を逃げたのだけど……これは当然、彼が仕掛けた巧妙な罠です。

そういう肩書になった以上、PV(=ページビュー)が伸びないとき「これは趣味で始めたコトですから…」式のヌルい言い訳は、出来なくなってしまう。まあ、後になって気が付いたコトなんですけどね。

要するに何が言いたいかと言えば、僕はプロのモノ書きではなく、もちろんプロの編集者でもなく、まるでブタに口紅を塗る如く、無理やりメタモルフォーゼさせられた人間だということ。

でも近く鳴り物入りでサービスを開始するハフィントンポスト・ジャパンの松浦さんと、堀江貴文氏との対談で、なんだか知らないけど「Market Hackが話題にのぼっているぞ」とダイヤモンド・ザイの井口さんにTwitterで教えられて「ヒェーッ!」と驚いてしまったのです。

(そ、そうか……オレって、個人メディア?!“#$%&‘?)

名指しにされた以上、逃げ回っていてもしょうがないので、個人メディア論とまで行かなくても、Market Hackをやるにあたって僕が心にとめてきたポイントくらいは、シェアしてみようかなと。

【専門性】
正しいかどうか、わからないけれど、僕の考えでは個人メディアにゼッタイ必要なことは自分のドメイン(領域)におけるリーダーシップだと思います。

たとえば上に書いた松浦さんと堀江さんの対談にも出てきたナタリーは、音楽関係のカバレッジでは圧倒的な存在ですよね?

アメリカの、僕の好きなメディアの例で言えば『Deadline Hollywood』というハリウッドのエンタメ産業のニュースサイトがあります。これはニッキ・フィンクという記者がやっているサイトです。

アメリカの映画会社の社長さんは、毎日、欠かさずこのサイトをチェックし、ライバルの動向や業界のゴシップを追うわけです。ニッキは映画会社の社長さんやハリウッドのエージェントやスターの弁護士から恐れられている存在であると同時に、地獄耳的な情報源でもあるわけです。

一方、ワシントンDCネタのサイトなら『Politico』というニュースサイトがあります。そこに「Playbook」というゴシップのメルマガ的なサービスがあり、議員さんやロビイストやオバマ大統領は、毎日、必ず「Playbook」に目を通します。これを編集しているマイク・アレンという記者は毎晩、夜12時頃にオバマ大統領の側近に電話なりメールなりしてチャットして「おやすみ!」と言い、次の朝、6時頃にその側近に朝一番に「おはよう!」コールをします。そのくらい、べったり。

しかも側近が寝ている間に次の日の「Playbook」がUPされているという次第。

言い換えればオバマ大統領の朝のブリーフィングは、側近と『Politico』のアレン氏とのチャットがなければ、始まらないのです。

専門性って、つまりそういうコトだよ。

もちろんMarket Hackは『Deadline Hollywood』や『Politico』の境地にはぜんぜん達してないけれど…少なくともキモチの上では(特定のことに関心を抱いている読者にとって、サイコーの情報源を目指そう)くらいの意気込みがないと、世間からは認知されないと思う。

【既存のメディアを、どう負かす】
第二点として、既存の専門誌とどう差別化するか?という問題があります。

先述の『Deadline Hollywood』の場合、長い歴史を持つ『バラエティ』ならびに『ハリウッド・リポーター』という二つの業界紙を敵に回して戦わなければいけませんでした。

ニッキの戦法は記事更新頻度、言い換えればニュースのスピードで相手を打ち負かすということです。

『Politico』のマイク・アレンも、皆が寝静まったときに、仕事している。だからニュースの新鮮度がちがうわけです。

Market Hackの場合、兎に角日本の夜の時間に出たニュースなら(現地の英文のウォールストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズには勝てないとして)少なくとも日経やモーサテよりは早く記事にしたいというキモチはあります。

また決算発表なども、証券会社からアナリスト・コメントが出る前に、即、記事にします。

それから記事の体裁も古くからのMarket Hackの読者はもうお気づきかと思いますが、一目で結果がポジティブ・サプライズだったか、それともネガティブ・サプライズだったかわかるように記事の見出しや冒頭の書き出しに気を配っています。それは読者の貴重な時間を一秒でもムダにしてはいけないからです。

それから金融メディアはデータが全てだと僕は個人的に思っています。だからクダクダ能書き垂れるのは最小限にして、データに語らせることを優先します。そのためには経済指標などのデータは普段からスプレッドシートに保管しておき、ニュースが出たらすぐにチャートを作成できるようにしておく必要があります。

投資家は、いつも間違ってばかりいる僕の意見など、どうでもいいと思っている筈です。でもデータの正確さや早さは数カ月観察していると「こいつはソリッドだな」ということは、わかる。

金融関係のニュースの多くは無味乾燥だし、個々のデータの持つ全体の文脈の中での意味などはよほどの通でないかぎりわかりません。だから「ニュースをどう見せるか?」といいう難問に、ぶつかるわけです。

やれ「モルヒネ注射」がどうのこうのとか「ストリップショー」がどうだとか、そういうヘッドラインは(僕がそういう話題が好きだということは当然あるとして)あくまでも見せ方、説明の仕方でしかないわけです。

だから本当の主役はデータです。

既存メディアを、どう打ち負かす? という事は、言いかえれば主役であるデータの調理の仕方や料理を出すスピードで、どう差別化するか? という問題に他ならないのです。


【コミュニティ】
ハフィントンポストやBLOGOSにはコメント欄があります。コメントにカキコできるという参加意識がリピートの読者を獲得するひとつの重要なツールになっているわけです。

それは読者のコミュニティと言えるかも知れません。

しかしここでのコミュニティとは共通の関心(interest)でつながっている固定的な読者でなければいけません。

なぜコミュニティは大切なのでしょうか? それは僕の独断と偏見では、それがビジネスだからです。

そういうと(なんだい、こいつ、コミュニティにビジネスを持ち込みやがって)と反発する方もいらっしゃると思いますが、Facebookのシェリル・サンバーグが日頃言っていることを思い出して下さい。

「フェイスブックは実名でつながっている真正なコミュニティだからこそ、広告主にとって価値がある」

暴走族、ヘルズエンジェルスの機関紙にハーレー・ダビッドソンのステマ広告が出ていたとして、それがバンダナ巻いてビキニねえちゃんの絵が入った黒い革ジャン着た髭もじゃのライダーの怒りを買うでしょうか? たぶん、広告はノー・プロブレムでしょうね。なぜなら広告まで含めて、それがコミュニティの関心領域だからです。

どこかのタレントが、脈略も無く自分のブログでステマ広告を唐突に出すから、ファンから突き上げられるのであって、プラモデルのファンはプラモデル雑誌にTAMIYAの広告が出ていたからと言って文句は言わないと思うのです。

逆に言えば、あなたが「個人メディア」を自称していながら、そのファン層が、ひとつの、コミュニティ全体を貫く関心領域によって一纏めにまとまっていないのであれば、それをビジネス・ベースに乗せるのは、並大抵の努力ではないでしょうね。