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ニューヨーク・タイムズ(ティッカー・シンボル:NYT $9.85)は1851年に創刊された新聞です。1896年にアドルフ・オックスに買収され、ニューヨーク州に登記された会社として改組されました。

同社の株式はクラスAとクラスBに別れており、クラスA株式の保有者は役員の30%を選出することができる投票権を付与されています。クラスB株式の保有者は役員の70%を選出できます。

クラスB株式はアドルフ・オックス(1858-1935)の後裔によって保有されており、オックスの娘婿であるアーサー・ヘイズ・サルツバーガー(1891-1968)はじめ一族のメンバーが同社の経営にあたってきました。

現在もオックス-サルツバーガー一族のトラスト・ファンドが同社のクラスB株式の90%を支配していることから、敵対的買収は出来ません。

なお同社はメキシコの大富豪、カルロス・スリムから融資を受けた経緯があり、現在、スリムは同社のクラスA株式の17%を保有しています。

インターネットの普及の影響などもあり、近年、アメリカでの新聞の購読はじり貧になっています。ニューヨーク・タイムズもこのトレンドの影響を受け、経営危機に直面しています。

この局面を乗り切るため、同社はファミリー経営の伝統をやぶり、元BBCのマーク・トンプソンをCEOに抜擢しました。先に発表された第1四半期決算では、マーク・トンプソンが着任後、三ヶ月経った初の決算発表となりました。

この間、トンプソンはニューヨーク・タイムズをどう立て直すかに関していろいろ思案し、次のような一連のプランを打ち出しています。


先ず同社の傘下のインターナショナル・ヘラルド・トリビューンをインターナショナル・ニューヨーク・タイムズに名称変更することが発表されました。

次に『ザ・ボストン・グローブ』を含むニューイングランド・メディア・グループを売却することを決めました。

さらに同社の卓越したジャーナリズムの強味を生かすべく、ビデオなどの新しいプロダクトを開発することが決まりました。

デジタル・サブスクライバーの拡大は同社のサバイバル戦略のコアであり、これまでにそれなりの成果を挙げてきましたが、全てのコンテンツにアクセスできる、正価のデジタル・サブスクリプション・プランの他に、限定的なアクセスだけを許す廉価版のサブスクリプション・プランを準備中です。

目下の課題はインターナショナル・サブスクライバーをどう拡張するか? です。そのためにはサインアップする際のページをローカライズするなどし、潜在顧客が購入しやすいようにすることが必要になります。

ニューヨーク・タイムズは硬派のニュースだけでなく、芸術、文化、スタイル、フードなどのコンテンツも極めて強いため、それをデジタルでどう展開するかが課題です。

現在のニューヨーク・タイムズの購読者数(宅配+デジタル)は平日が167万人、週末(サンデーNYタイムズは「マガジン」などを含み、とりわけ分厚いです)が214万人です。

デジタル・サブスクライバー数は約70万人で、これは前年比+45%です。

ニューヨーク・タイムズの87%は宅配もしくはデジタルの購読者によって買われていますが、残りの13%はニューススタンドなどで買われてゆく一回きりの購入です。

紙のニューヨーク・タイムズのうち43%はニューヨーク市、ウエストチェスター郡、ロングアイランド、コネチカット州、ニュージャージー州などのニューヨーク圏で買われており、残りの57%はそれ以外の地域で売られています。

同社の売上高の内訳は下のグラフのようになっています。

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宅配購読料は第1四半期中に値上げされました。それもあり第1四半期の購読料収入は+7%でした。

なお宅配を受けている購読者には無料でデジタル・コンテンツへのアクセスが可能であり、デジタル・サービスがローンチされて以来、宅配のリテンション(購読者のつなぎとめ)率は向上しています。

一方、第1四半期の広告収入は経営陣の期待を下回りました。景気の影響が当然あるわけですが、その他にもアド・エクスチェンジ、リアルタイム・ビディングなどのウェブ上での広告のバトルにニューヨーク・タイムズが上手く参戦できていない面があります。

つまり新聞のデジタル戦略と言った場合、単に有料化というだけでなく、広告のサイドでのマネタイゼーション機会もあるわけですが、同社の場合、そちらの方は未だ効果的な攻め方を編み出せていない観があるのです。

特に3月の広告収入は-17%と落ち込みが激しく、プリント・アド、デジタル・アド、モバイル・アドの全てが惨憺たる結果でした。

ウェブではアド・インベントリーが供給過剰となっていることに加え、重要な広告主である映画会社からの出稿は今年はオスカー・レースがエキサイティングではなかったため、低調に終わりました。

さらに金融機関からの出稿も低調でした。

4月に入って、広告市場はかなり持ち直しているので、第2四半期は第1四半期よりは良くなると見られています。

長期で見たニューヨーク・タイムズの業績は、全く油断できない極めて厳しいものです。

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DPS一株当り配当
EPS一株当り利益
CFPS一株当りキャッシュフロー
SPS一株当り売上高


DPSの欄がゼロなのは2008年を最後に無配転落しているからです。キャッシュフローのトレンドもじり貧を辿っています。

同社の営業マージンは14%、純利益マージンは3.5%です。

バランスシート上には9億ドルのキャッシュと7億ドルの負債があります。当面は無配を継続する予定です。また同社は年金ファンドの積み立て不足があります。年金資産16.2億ドルに対し、積立必要額は23.2億ドルであり、7億ドルの不足になっているわけです。このため同社では第1四半期中も少し年金ファンドへの拠出を行い、不足幅の圧縮に努めています。