ヘリテージ財団は米国の保守系の利害を代表するシンクタンクです。だから彼らが発表する論文は、アメリカ全体のコンセンサス意見ではありません

ただ米国の保守系の人々が何を考えているかを窺い知る意味で、或る程度、参考になります。

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に関し、最近、同シンクタンクの上席リサーチ・フェローのデレク・シザーズが論文を発表しています。

その全文はココで読めます。

アメリカ人が、米国の利害をどう守るか? という観点から書いた論文なので、我々日本人からすると少し読むのが辛い箇所もあります。また読んでいて、カチンと来る記述もあります。

ただ、敵が交渉に当ってどういう態度で臨んでいるのか、その手の内を知ることは有益だと思ったので、紹介しました。

以下は「アメリカにとって良いTPPとは何か?What a Good Trans-Pacific Partnership Looks Like」の抄訳です。

【キーポイント】
1.TPPは米国経済を強くし、将来のアジアにおけるアメリカの経済的、政治的リーダーシップを約束する

2.米国がTPPで得をするためには、TPPが質の高い協定になる必要がある。それは隠れた保護主義を排し、多方面で市場経済主導の自由化を促すものでなくてはならない

3.特にTPPは国有企業の活動の制限、知的所有権の保護、サービス・セクターの開放の三点にフォーカスすべきだ。一方、米国の農業の保護は減らすべきだ

4.TPPの失敗、ないしは中途半端な合意は米国が経済協力に興味を持たず、地域紛争の局面だけで出しゃばる印象をアジア太平洋地域の国々に与えるだろう


アメリカにとって良いTPPとは何か? TPPは国有企業の活動を制限し、知的所有権を保護し、サービス・セクターの開放を働きかけるものでなくてはならない。またアメリカ側の障壁も取り除くことを含むべきだ。


TPPは経済面でも外交面でも「ゲーム・チェンジャー(=試合の流れを変えるきっかけのこと)」である。若しアメリカがTPP交渉で失敗すれば、最近、我が国がアジアに「ピボット」していることはアジアからみれば単なる軍事面での必要からそうしているだけだと見做されるだろう。

国有企業
巨大な国有企業と言った場合、中国(*)のSOEs(State-owned enterprises)が頭に浮かぶ。しかし中国以外の国でもそれらは存在する。ここでは国有企業を定義するにあたって、広義の定義を用いるべきだ。それはすなわち、一部の株式を取引所に上場する程度ではダメだということだ。

国有企業は殆どのセクターから排除されるべきだ。若しTPP参加国が国有企業の存続に固執するなら、そのマーケットシェアに上限を設けるなどの措置が必要だ。

国有企業のリスト

シノペック
CNPC
ステート・グリッド
日本郵便
ガスプロム
ENI
ING
GM
ペトロブラス
ファニーメイ
NTT
BNPパリバ


知的所有権
米国は世界のどの国より研究開発費(R&D)を使っており、そこからもたらされる知的所有権こそが競争優位の源泉になっている。従って知的所有権の保護は交渉の中心的議題にならなくてはならない。サイバー・スパイなどの事例も最近発生している。企業秘密の盗難は、貿易の障壁と同じように、WTO(世界貿易機構)で定められた報復(cross-retaliation)の対象にできるように扱われるべきだ。

サービス
サービス・セクターの開放を促進するにあたり、ネガティブ・リストの利用を提唱すべきだ。ネガティブ・リストとは規制緩和の対象外として保護されるセクターを最初から決めるやり方だ。交渉にて開放を求めるセクターとして、金融サービスを優先するべきだ

米国が譲歩できる面
米国の農業は保護される必要はない。特に砂糖、乳製品などの保護は馬鹿げて(self-defeating)いる。海運やテキスタイルにおける保護主義もやめるべきだ。

(*)=中国はTPPの参加には消極的で、TPPに対抗する独自の地域経済協定をプッシュしています。