来月、中国の習近平国家主席とオバマ大統領がサミットを開催します。

日取りは6月7・8日で、場所は南カリフォルニアのサンディエゴに近い、ランチョ・ミラージュにあるサニーランズです。

サニーランズは故ウォルター・アネンバーグ氏の邸宅だったところです。アネンバーグはTVガイドをはじめとするメディア王で、慈善事業でも有名です。

サニーランズは「西のキャンプデービッド」と呼ばれる事もあり、過去に何度も外国からの賓客を迎えています。

今回のサミットでアメリカ側はサイバーセキュリティ、北朝鮮、南シナ海の領有権問題などに斬り込むと思われます。

一方、中国側は最近、アメリカが軍備をアジアへシフトしていること、TPP問題に絡めて中国の包囲網を作ろうとしているのではないか? という懸念などについてアメリカ側に問いただしたいと考えている筈です。

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さて、ここからは僕の解説ですが、アメリカはTPPを契機に、中国をモノ作りの範囲だけに囲い込もうとしているフシがあります。それを図示すると下のようになります。

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中国はモノを作らせれば、誰よりも安く、良い品質のものを生産できます。この面では、もうアメリカは太刀打ちできません。しかしビジネスにはサービス、知的所有権、投資など、モノ以外のやりとりもあります。


そこでTPPを通じて、これらのビジネス活動に関して厳格なルールを確認し合うことで、中国がモノ作りのフードチェイン(食物連鎖)の頂上へ、よじ登れないように画策しているのではないかと中国側は疑っているわけです。

これはもっとわかりやすい表現に直せば「iPhoneの下請けは、中国にやらせる。だけど中国のブランドを冠した製品をアメリカ国内でマーケティングしようとすると、いやがらせをうける」という事です。

これは日本に住んでいる読者の方々にはわかりにくい点かも知れませんが、アメリカではToyotaやSONYという日本のブランドは浸透しています。でも中国のブランドは……全然浸透していないのです。

もちろん、中国は下請けというカタチで沢山のグローバル・ブランドの製品を実際に組み立てています。でもブランドだけはアメリカやヨーロッパのブランドなのです。国際水平分業とは、つまりそういうコトなわけですが、組み立て屋に甘んじていたら、いつまで経っても2%~3%のマージンに甘えなければいけません。言い換えればマージンの大部分は、ブランドに宿っているわけです。

TPPの交渉国に中国が入っていないのは、偶然ではありません。

いや、アメリカがTPPの話し合いに途中から参加した理由は、上記のような「中国包囲網」をチラつかせることで、中国との交渉のレバレッジを引き出すためのオポチュニスティックな判断だったのです

アメリカがTPPに何を期待しているかについては、以前、ヘリテージ財団のデレク・シザーズの論文を紹介したので、ここでは繰り返しません。

しかし米国が優先順位を置いているのは知的所有権の問題、国有企業の活動の抑制の問題、そしてサービス・セクターの開放です。

これらのうち、特に知的所有権の問題と国有企業の活動を制限する問題に関しては、中国は立場が弱いです。

中国は国有石油会社を通じて、アメリカのシェールガス田に投資してきました。しかしTPPで国有企業の活動の制限が決まると、折角、アメリカの天然ガス産業を買い占めても、天然ガスを中国へ輸出できなくなるリスクもあるのです。

この点について、現在は天然ガス輸出施設の建設計画が提出されるごとにオバマ政権がそれを承認する方法が取られています。先日、シェールガス対日輸出の許可第2号が出たのは皆さんの記億に新しいと思います。しかしTPPに合意すれば、今後は一回毎に承認を取り付ける必要は無くなるのです。

このようにエネルギーの安全保障の面からも、今回の中・米サミット、ならびにTPP交渉は、大きな含蓄をもっているのです。


(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief, Market Hack