中国がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の行方に深い関心をもって注目していると発表しました。

メディアの報道では、あたかも中国がTPP交渉に参加するような書き方がされているケースもありますが、これはあくまでもポーズだと思います。(なぜそう考えるかは、下に述べます)

習近平国家主席はすでに米州各国歴訪を始めており、トリニダード・トバゴ入りしています。

トリニダード・トバゴは米国へ石油を輸出している産油国です。でもノースダコタ州のシェールオイル・ブームでアメリカが石油を買わなくなったので、新しい顧客を探していました。中国がこの余った石油を買い付けるわけです。

この後、習近平国家主席はメキシコに回りますが、メキシコも石油の輸出国で、トリニダード・トバゴと同様の問題を抱えています。

これらの国に訪問した後、習首席は南カリフォルニアのサニーランズで7・8日の両日、オバマ大統領と会談する予定です。

このところアメリカはTPPを通じて中国にプレッシャーをかけています。

たとえば「為替操作」という言葉。

日本人はこれを聞くとすぐに(え、俺の事?)と思ってしまうのですが、この批判は主に中国に向けられています。

実際、アベノミクスによるあからさまな円安誘導に関しては、アメリカはたいへん寛容でした。なぜならTPP交渉を進めるにあたって日本を批判したくないからです。


次にシェールガスの輸出ですが、これもTPPと絡めて重要なポイントになります。アメリカの法律では二国間(ないし多国間)経済協定が無い場合、LNG(液化天然ガス)の輸出許可は、その度ごとに政府の承認を得る必要があります。(先日、ようやくシェールガス対日輸出許可第二号が出た事は、記憶に新しいところです)

しかしTPPを締結していれば、フリーパスで輸出できるようになります

中国もLNGを欲しいわけですから、これはエネルギー確保で日本より不利な立場になることを意味します。

中国の場合も日本と同様、アメリカのシェールガス田や石油・天然ガス探索生産会社へ直接投資してきました。これはノウハウの取得と将来の天然ガスの供給を受けやすくするための先行投資です。

折角、もう投資しているのにTPPで中国が除け者にされると、その投資が意味をなさなくなるわけです。

ノウハウの話が出ましたが、知的所有権の問題はアメリカがTPPの交渉で中核に据えている大問題です。

中国は著作権の侵害など、知的所有権を巡る問題が山ほどあります。その問題解決に際して、アメリカが交渉のレバレッジを得るためにも、徒党を組んで中国を抑え込みたいと画策しているのです。

この点、日本は知的所有権の擁護という点では遥かに進んでいます。だからアメリカは日本をターゲットにする気は、サラサラ無いと思います。

さらにアメリカは国有企業の問題を争点として取り上げたいと考えています。企業名で言えばシノペックとかCNPCです。このへんの企業はアメリカのシェールガスに既に投資しているので、名指しにされると立場が弱くなります。

先日、中国がアメリカ最大の豚肉の加工業者、スミスフィールド・フーズ(SFD)を買収すると発表しました。しかしアメリカの世論は必ずしもこの買収に賛成ではありません。場合によってはアメリカ政府がこのディールをブロックする可能性も残されています。TPPでは原産地規則がありますが、現在、アメリカでは既に食材の原産国の表示の問題が尻抜け状態になっており、これを機に中国産の食品への規制を強化しようという動きもあります。

中国にとってみればスミスフィールドの買収はアメリカから中国へのポークの安定供給が主な狙いで、中国から米国への輸出は考えに無かったと思いますが、思わぬアングルから批判されてしまったわけです。

今回、中国側が「TPPに関心を持っている」と言ったのは、そういう意味で関心を持っているというわけで、決して「中国も参加したい!」ということでは無いと思います。なぜなら上に書いてきたようにTPPの交渉のテーブルに着く際のハードルの高さは、日本の比じゃないからです。有り体に言えば、ムリです。

日本人は「TPPはアメリカと日本の間のバトルだ」と受け止めている人がたいへん多いですが、アメリカ人は、ちっともそんな風には考えていません。あくまでもターゲットは中国です。

そこんとこ、ヨロシク。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief, Market Hack