三菱UFJフィナンシャル・グループがタイ第5位の銀行であるアユタヤ銀行(Bank of Ayudhya、別称、Krungsri)の過半数(51%)株式取得を試みようとしています。

三菱UFJがタイのリテール・バンキング・ビジネスに割り込むチャンスが、まるで「棚からぼた餅」のように転がり込んできたことが、買収を決断した真相だと思います。

それと言うのも、もともとアユタヤ銀行の筆頭株主は米国のGEキャピタルで、ピーク時には32.93%の株式を保有していました。

しかし米国のゼネラル・エレクトリック(ティッカーシンボル:GE)が事業を再編し、戦略的コアビジネス以外の資産を整理処分する方針を打ち出しました。

GEそのものはタイをジェットエンジンのサービス拠点にするなど、アセアンのオペレーション・センターとして重視していると思います。

ただアユタヤ銀行はほぼ純粋なリテール・バンキング業務であり、法人融資その他の業務を通じてGEグループの他の部署とシナジーが出せない状況だったのです。

そこで去年の秋にGEキャピタルはブロック・トレード(大口クロス)でアユタヤ銀行の7.6%を市場で処分しました。

これは市場に対して「アユタヤ銀行は、売り物になっていますよ」ということをシグナルすると同時に、GEキャピタルが保有する、残りの25.3%株式を誰かが肩代わりする際、タイの証券取引法で定められたテンダー・オファーを必要としなくて済むことを意味します。

日本のマスコミの報道では三菱UFJはアユタヤ銀行の過半数株式を取得したい意向があるように書かれていますが、外人持ち株規制の上限である49%を超える株式取得に際してはタイ中銀の承認が必要になると思います。僕の記憶はあやふやですが、確か過去にはこの49%を超える株式の支配を巡って、論争があったと思います。

さらにタイの銀行行政では外銀は「1拠点主義」のルールがあり、自社、つまり三菱UFJの支店を現地で維持しつつ、アユタヤ銀行を支配することは出来ないと思います。このため三菱UFJのオペレーションをアユタヤ銀行と統合する必要が出ると思われます。

さて、アユタヤ銀行の側を見ると、既にGEキャピタルの同行に対するコミットメントが薄まってきたことを反映し、去年あたりから経営トップに変化が出ています。

先ずCEOだったGEキャピタル出身のマーク・アーノルドが退任しました。

その後任には同じくGEキャピタル出身で、2007年から2012年までCFOを務めていたアメリカ人、ジャニス・ヴァン・エケレンが就任しています。彼女はシカゴ大学のビジネススクールを出た後、GEキャピタルに1995年に入社しました。

ジャニス・ヴァン・エケレンがCEOに就任したのと同じタイミングで、それまでアユタヤ銀行の消費者向けビジネスを指揮していたフィリップ・タンがプレジデント兼エグゼクティブ・ディレクターに就任しました。彼は1993年にGEキャピタル・タイランドに入社しています。

アユタヤ銀行は1945年に創業された銀行で、小口預金を集め、それを小口の貸付に回す、シンプルなビジネス・モデルを堅持してきました。

同行は特に貸付利ザヤの面で他行をしのいでいる点が目を惹きます。

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次にローン・ツー・デポジット比率を見ると、アユタヤ銀行が最も高くなっています。これは預金の何%が貸付に回っているか? を示す指標です。

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言いかえればアユタヤ銀行の場合、預金の残高より貸付残高の方が大きいということです。

これは「旺盛な資金需要がある」という風にも取れますが、貸付の資産内容が劣化すると困るし、自己資本もしっかりしている必要があることを示唆しています。

そこでアユタヤ銀行のノン・パフォーミング・ローン比率を見ると、リーマンショック時の8.8%という酷い状況から、去年は2.4%にまで改善してきています。

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これはGEキャピタルがアユタヤ銀行の株式を取得、買い増しした当時は自己資本を補強するニーズが強かったけれど、今はその危機は去ったことを示唆していると思います。

ノン・パフォーミング・ローンに対する貸倒引当金比率(ローン・ロス・カバレッジ・レシオ)はアユタヤ銀行の場合、147%です。

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さらにアユタヤ銀行のバーゼルⅢ下でのティアワン・キャピタル・レシオは11.6%で、これはタイの銀行の中ではバンコク銀行に次いで高い数字となっています。

このように足下の業績を見ると、改善著しく、バラ色に見えるのですが、これはタイ経済そのものが好調であることに助けられている面が多分にあると思います。

そのタイ経済ですが、輸出には陰りが見えており、それを力強い内需で補うカタチになっています。

インフラ・プロジェクト、設備投資、建設などが内需をけん引しています。

この結果、タイ経済は去年の6.4%成長に続いて今年も5%程度成長すると見られています。

ビジネス・コンフィデンス指数はほぼ過去最高の水準にあり、自動車、建設、電機などのセクターで旺盛な先行投資が行われています。

タイ政府は道路、港湾施設、空港施設などを中心にアグレッシブな公共投資計画を実施中で、その投資額は2015年にピークを付けると見られています。

これらはいずれも良い事なのですが、問題点は1990年代のタイのバーツ危機の直前に見られた、投資家や政府の慢心が、再び見られ始めている点だと思います。

つまり景気サイクルの頂点近くでGEキャピタルが売り抜け、三菱UFJがババを掴まされるリスクがあるわけです。

好事魔多し。