
株式の割高、割安を判断するひとつの尺度として株価収益率というものがあります。
株価収益率は英語ではPrice Earnings Ratioといい、略してPERと呼ばれます。
PERの計算方法は現在の株価÷年間一株当り利益(EPS)です。
いまインテル(ティッカーシンボル:INTC)の株価は$24.23です。
一方、EPSは:
過去12ヶ月(TTM)のEPS:$2.0
2013年の予想EPS:$1.87
2014年の予想EPS:$2.02
となっています。
するとここで投資家は最初の疑問にぶち当たります。
「一体、どのEPSを使って、PERを計算すればいいの?」
いま二人の投資家が「○○のPERは安い!」と話していたとして、それぞれの人が、同じPERをイメージしながら議論しているとは、限らないのです。
インテルの場合、2013年の予想EPSを使えば:
$24.23 ÷ $1.87 = 12.96
つまりPERは12.96倍です。しかしもう一人の方は過去12カ月(TTM: Trailing Twelve Months)のPERを使用していたかも知れません:
$24.23 ÷$2.0 = 12.12
TTMはわかりにくい概念かも知れないので、もう少し言葉を補足しておきます。TTMとは、既に決算発表が済んでいる過去4回(=1年=12months)分の四半期EPSを合計したものです。
だから皆さんが証券会社の調査レポートなどを読む際、PERが議論されていたら、それがTTMに基づく議論なのか、今年(2013年)の予想EPSに基づく議論なのか、果ては来年(2014年)の予想EPSに基づく議論なのかを知る必要があるのです。
「ドットコム・ブームのときは、どうだった……」式に、過去のPERを回顧する場合は実績、つまりTTMのEPSに基づいたPERが普通使用されます。
「株価は未来を織り込む」とよく言われますが、将来の目標株価などを証券会社のアナリストや調査レポートが論じる場合、将来のEPSが使われる事が殆どです。
アナリストは楽観的なバイアスがかかっているので、TTMよりも2013年、2013年よりも2014年の方が、一般論としてEPSは大きくなっている場合が多いです。(上のインテルの例は、ちがいますけど)
年初、つまり1月1日に「今年のEPSに基づくと……」と議論した場合、2013年のEPSは12ヶ月先の未来を論じていることになります。
でもインテルの例で言えば、2013年の第1四半期(40¢でした)はもう判っているので、3四半期先の未来を論じている事になります。
7月の第二週あたりになると、次の決算、つまり第2四半期(6月期)の決算が発表されるでしょう。すると2013年は、半分終わったことになるのです。
なぜこのようなコトをこまごま議論するかといえば、夏から秋にかけては「そろそろ2013年のEPSではなく、2014年のEPSを使用して、株価の割高、割安を議論した方がいいな……」という基準の遷移が起こることを説明したいからです。
なお今年ではなく、来年のEPSを「アウトイヤー(外の年)」と呼ぶ場合があります。つまりある時点で、皆がアウトイヤーの予想を使い始めるわけです。
PERは数値が低いほど「割安」で、逆に高いほど「割高」だと一般には理解されます。しかしこの議論は、気を付ける必要があります。
いまPERが12倍の銘柄Aと13倍の銘柄Bがあったとして、銘柄Aの方が銘柄Bより割安か? と言えば、必ずしもそうとは限りません。なぜならひょっとすると銘柄BはEPSが毎年15%で成長していて、一方の銘柄Aは5%でしか成長していないかも知れないからです。
PERは「投資家がその株に投資する際に一株当り利益の何倍までの値段を支払う準備があるか?」を示していると解釈できるので、投資家の積極性を映した鏡であると言えます。
普通、投資家は急成長している株には高い値段を払うことを厭いません。
すると5%でしか成長していない銘柄Aに12倍のPERを支払うのは、15%で成長している銘柄Bが13倍で取引されているのに比べると、「割高感がある」という議論も展開できるのです。
だから:
という風に購入候補銘柄のPERがなっていたとして、一足飛びに「いちばんPERの安い銘柄Aを買おう!」という結論に到達しないで欲しいのです。FよりもD、DよりもCの方がお買い得だということも、ありません。
特にこれらの銘柄がハイテク、景気敏感、ディフェンシブなど、違うセクターに属している場合は、そもそも違うセクター同士の株のPERを比較すること自体がナンセンスです。
それではPERを使うこと自体に意味がないのでしょうか?
僕はそうは思いません。
PERは「あーあ、やっちまったなあ」というデカいミスを避けるという意味で有効です。
例えばPERが50倍を超えているような銘柄を買ってしまうと、株価が半分や3分の1になるリスクを負いながら投資しているに他ならないのです。
上で書いたようにPERは「投資家がその株に投資する際に一株当り利益の何倍までの値段を支払う準備があるか?」を示しているわけですから、別の言い方をすれば期待の高さの指標に過ぎないのです。それは「熱気(hot air)」に他なりません。
もちろん、投資家は「この会社のEPSは、どんどん伸びる!」と信じているから高いPERを払うわけだけれど、勢い余って、熱気部分が業績の伸び(=EPS成長率)より先走ることも多いのです。
PERがどんどん上昇している局面を、マルチプル・エクスパンションと言います。この「マルチプル」とは、倍率の意味です。
逆にPERがどんどん下がっている局面は、マルチプル・コントラクションと言います。
余り全体的に、決めつけた言い方はしたくありませんが、敢えて言えば僕の経験ではマルチプル・エクスパンションが起こりはじめた、つまりその端緒についた時点で買った株は儲かったケースが多く、マルチプル・エクスパンションが、気が付いてみると、いつの間にかマルチプル・コントラクションになっていた……というようなケースでは損をしたケースが多かったです。
あと、景気のサイクルとPERの関係も無視できません。景気後退局面では、鉄鋼業や自動車産業のように装置産業の場合、EPSがつるべ落としに悪化するケースが多いです。これはそれらのビジネスが多大の先行投資や設備を必要とし、常に一定以上の、高水準の売上高を保たない限り、モノを作っても赤字になってしまうことから来ています。
そのようなビジネスを「損益分岐点が高いビジネス」だと言うこともあります。この場合、損益分岐点とは「この数量、ないし金額以上、売り上げれば、やっと利益が出ますよ」というターゲットだと思って下さい。
すると或る自動車メーカーが四半期に9,000台出荷したら大赤字だったのに、次の四半期の出荷が10,050台に増えたら、黒字転換した、そしてその次の四半期が11,000台なら、ウハウハに儲かった……ということは、ごく一般的に見られる現象なのです。
このような、ほんのちょっとした売上高や出荷台数の差が利益の増減に大きく跳ね返って来るビジネスを「オペレーティング・レバレッジが高い」という風に形容することもあります。
オペレーティング・レバレッジが高いビジネスではちょっと不景気になるとEPSが猛烈なスピードで蒸発してしまいます。するとPERの計算をする際の分母が小さくなるので、逆にPERは無限大になり、次の瞬間には赤字になるのでNA: not available、つまり計算できなくなってしまいます。
言い換えれば、株価の調整速度(ないしは投資家の「熱気」の伸縮度)より、EPSの増減のペースが急激なケースもあるということです。
冒頭に掲げたグラフを見て欲しいのですが、2008年にリーマンショックが起きた際、投資家は怖くなって投げ売りしました。その結果、当時のPERは低下しました。これはマルチプル・コントラクションの例です。
しかし、その後、不況が来て、EPSが悪化した企業が続出したので、分母が小さくなり、逆にマルチプル・エクスパンションが起きています。これは足下の酷さを通り越して、株価が将来の状況改善を見据えて、それを一足先に織り込もうとした事の現れであると解釈することが出来るかも知れません。
このようにPERの議論は奥が深く、尽きる事がありません。
ただ極端に高いPER(たとえば50倍以上)や極端に低いPER(たとえば8倍以下=普通、目に見えないとんでもない悪材料を含んでいます)の銘柄を避けるだけで、投資成果に或る程度、差が出ると思います。
いまPERが12倍の銘柄Aと13倍の銘柄Bがあったとして、銘柄Aの方が銘柄Bより割安か? と言えば、必ずしもそうとは限りません。なぜならひょっとすると銘柄BはEPSが毎年15%で成長していて、一方の銘柄Aは5%でしか成長していないかも知れないからです。
PERは「投資家がその株に投資する際に一株当り利益の何倍までの値段を支払う準備があるか?」を示していると解釈できるので、投資家の積極性を映した鏡であると言えます。
普通、投資家は急成長している株には高い値段を払うことを厭いません。
すると5%でしか成長していない銘柄Aに12倍のPERを支払うのは、15%で成長している銘柄Bが13倍で取引されているのに比べると、「割高感がある」という議論も展開できるのです。
だから:
銘柄A 12倍
銘柄B 13倍
銘柄C 14倍
銘柄D 15倍
銘柄F 16倍
という風に購入候補銘柄のPERがなっていたとして、一足飛びに「いちばんPERの安い銘柄Aを買おう!」という結論に到達しないで欲しいのです。FよりもD、DよりもCの方がお買い得だということも、ありません。
特にこれらの銘柄がハイテク、景気敏感、ディフェンシブなど、違うセクターに属している場合は、そもそも違うセクター同士の株のPERを比較すること自体がナンセンスです。
それではPERを使うこと自体に意味がないのでしょうか?
僕はそうは思いません。
PERは「あーあ、やっちまったなあ」というデカいミスを避けるという意味で有効です。
例えばPERが50倍を超えているような銘柄を買ってしまうと、株価が半分や3分の1になるリスクを負いながら投資しているに他ならないのです。
上で書いたようにPERは「投資家がその株に投資する際に一株当り利益の何倍までの値段を支払う準備があるか?」を示しているわけですから、別の言い方をすれば期待の高さの指標に過ぎないのです。それは「熱気(hot air)」に他なりません。
もちろん、投資家は「この会社のEPSは、どんどん伸びる!」と信じているから高いPERを払うわけだけれど、勢い余って、熱気部分が業績の伸び(=EPS成長率)より先走ることも多いのです。
PERがどんどん上昇している局面を、マルチプル・エクスパンションと言います。この「マルチプル」とは、倍率の意味です。
逆にPERがどんどん下がっている局面は、マルチプル・コントラクションと言います。
余り全体的に、決めつけた言い方はしたくありませんが、敢えて言えば僕の経験ではマルチプル・エクスパンションが起こりはじめた、つまりその端緒についた時点で買った株は儲かったケースが多く、マルチプル・エクスパンションが、気が付いてみると、いつの間にかマルチプル・コントラクションになっていた……というようなケースでは損をしたケースが多かったです。
あと、景気のサイクルとPERの関係も無視できません。景気後退局面では、鉄鋼業や自動車産業のように装置産業の場合、EPSがつるべ落としに悪化するケースが多いです。これはそれらのビジネスが多大の先行投資や設備を必要とし、常に一定以上の、高水準の売上高を保たない限り、モノを作っても赤字になってしまうことから来ています。
そのようなビジネスを「損益分岐点が高いビジネス」だと言うこともあります。この場合、損益分岐点とは「この数量、ないし金額以上、売り上げれば、やっと利益が出ますよ」というターゲットだと思って下さい。
すると或る自動車メーカーが四半期に9,000台出荷したら大赤字だったのに、次の四半期の出荷が10,050台に増えたら、黒字転換した、そしてその次の四半期が11,000台なら、ウハウハに儲かった……ということは、ごく一般的に見られる現象なのです。
このような、ほんのちょっとした売上高や出荷台数の差が利益の増減に大きく跳ね返って来るビジネスを「オペレーティング・レバレッジが高い」という風に形容することもあります。
オペレーティング・レバレッジが高いビジネスではちょっと不景気になるとEPSが猛烈なスピードで蒸発してしまいます。するとPERの計算をする際の分母が小さくなるので、逆にPERは無限大になり、次の瞬間には赤字になるのでNA: not available、つまり計算できなくなってしまいます。
言い換えれば、株価の調整速度(ないしは投資家の「熱気」の伸縮度)より、EPSの増減のペースが急激なケースもあるということです。
冒頭に掲げたグラフを見て欲しいのですが、2008年にリーマンショックが起きた際、投資家は怖くなって投げ売りしました。その結果、当時のPERは低下しました。これはマルチプル・コントラクションの例です。
しかし、その後、不況が来て、EPSが悪化した企業が続出したので、分母が小さくなり、逆にマルチプル・エクスパンションが起きています。これは足下の酷さを通り越して、株価が将来の状況改善を見据えて、それを一足先に織り込もうとした事の現れであると解釈することが出来るかも知れません。
このようにPERの議論は奥が深く、尽きる事がありません。
ただ極端に高いPER(たとえば50倍以上)や極端に低いPER(たとえば8倍以下=普通、目に見えないとんでもない悪材料を含んでいます)の銘柄を避けるだけで、投資成果に或る程度、差が出ると思います。