新興国発の世界同時株安がやってきました。今日はこの問題を考える事にします。
リーマンショック以降、世界のGDPの成長の80%は中国をはじめとする新興国が稼ぎだしてきました。

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いま世界経済を双発機に喩えれば、そのエンジンのひとつが停止し、先進国というエンジンだけに依存している状況なのです。

新興国のGDP成長に陰りが見えたひとつの理由は中国政府がシャドー・バンキングを抑え込もうともがいているからです。 シャドー・バンキングは、影の銀行という意味です。具体的には中国に今、蔓延している銀行の帳簿の外で行われる融資を指します。

中国政府はこの不健全な取引に対して手をこまねいているわけではなくて、一生懸命、それを是正しようとしています。その関係もあり、中国の金利設定はインフレ率に対してかなりきつめでした。

それを説明するため、まず各国の政策金利の過去の推移を示します。

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次に各国の消費者物価指数のグラフです。

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二つ目の消費者物価指数から一つ目の政策金利を引き算すると、たとえばインドの場合、実質政策金利が-2%程度で推移してきたことがわかります。これはガードが緩かったと評価できます。これに対して中国の実質政策金利はプラスです。

このように新興国の金利水準が高めにセットされていたことは、不景気の原因となっています。加えてギリシャ危機などで需要が振るわないので、世界の貿易は不活発になっています

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上のグラフで、現在の世界貿易のトレンドが、リーマンショックと9・11同時多発テロを除けば、いちばん不活発になっている点は、市場関係者からよく見過ごされる点だけれど、重要です。

新興国の投資家は、新興国がガンガン輸出し、外貨をバンバン稼いでいる状況では、我慢して投資し続けます。でも貿易収支や経常収支が赤字に転じると、とたんにそわそわするものです。

下はインドの経常収支と、直接投資、ポートフォリオ投資との関係をグラフ化したものです。経常収支の赤字を、外国からの投資でなんとかバランスを保っている構図が読み取れます。

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インドネシアは、いま最も急激に経常収支が悪い方へ振れている国のひとつです。

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なぜ経常収支は悪化するのでしょうか?

その一因は、実力より強い自国通貨は、身の丈以上の消費を助長し、同時に輸出競争力を殺すからです。それらの国々では、消費ブームが起き、不動産ブームが起きます。

よく新興国でマンション開発が始まると、通貨危機が近づいていると言われますが、最近のアセアン諸国では、アジア通貨危機の際、工事途中で放棄したビルの傍らで、新しいマンションが建設されている光景などを目にします。つまり人間は過去の失敗からなかなか学べないのです。

「奇跡の成長」と呼ばれる様な輸出の急成長を遂げた国は、いずれも固定相場でそれを実現したことは、カリフォルニア大学バークレーのバリー・アイケングリーンの研究に指摘されています。日本の第二次大戦後の場合、固定相場下で復興が実現したし、ドイツもそうでした。もっと最近の例では中国が固定相場下で急成長しています。

この理由は簡単で、為替レートが余り変動すると、実業家は安心して輸出に取り組めないからです。将来、自国通貨が割高になり、どんなに頑張っても輸出の場面で外国のライバルに太刀打ちできないかもしれないという不確実性が増せば、設備投資は鈍ります。これはこんにちのドイツのような、製造業の足腰の強い国ですら、見られる現象です。

だから「強い通貨は国益だ」式の単純な議論は、およそ投資や経済のリテラシーが無い人たちが言うことであって、そういう人たちはもう一度大学へ戻って、いちから経済の勉強をやり直した方がいいでしょう。

さて、経常収支が赤字の国というのは、壇蜜のような妖艶な魅力をたたえている場合が多いです。腐臭を放って虫を惹きつける熱帯の肉食植物のようなものです。そのヒダの中に入ると、「パクッ」と閉じてしまうわけです。つまり餌食です。

それらの一見良く見える新興国は、不動産ブームなどを背景に、消費は好調で、経済成長は高いです。GDP成長率などの、もっとも初歩的で役に立たない経済指標だけしか見ない投資家は、ついそれにつられて投資してしまうからです。その裏で、ヒタヒタ来る為替高でその国の輸出競争力は確実に蝕まれてゆくのです。

この手の外人のお金は所詮、逃げ足の速い資金。先進国で金利が上がりはじめたら、一番最初に逃げてしまうお金です。いまアメリカの金利はどんどん上がりはじめています。

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1990年代のタイのバーツ危機に端を発するアジア通貨危機、メキシコのペソ危機、ロシアのルーブル危機などはいずれも米国の景気が拡大する局面で、金利に上昇プレッシャーがある局面で起きています。


(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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