最近出した電子書籍『乙女たちの翼』を読む上で、知っているともっと楽しめると思われるデータを補足しておきます。

先ず米国の軍事支出の推移のグラフです。

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遥かに以前から軍備を増強していたドイツなどの枢軸国に比べ、米国は明らかに軍備を怠っており、慌てなければいけなかった背景が見て取れます。

ルーズベルト大統領は大量生産の専門家、ビル・ヌドセンを兵器生産の総責任者に指名します。この人は日本では全く知られていませんが、自動車会社やメーカーに勤めている人なら、知っておくべき人です。

ビル・ヌドセンは移民としてアメリカに渡ってきた後、フォードに勤めます。そこで大量生産のための様々なノウハウを編み出し、有名な「モデルT」を大成功させます。ここで重要なのは「モデルT」は「モデルA」ではないということです。言い換えれば「A」、「B」、「C」……などが全て失敗し、ようやくヌドセンのノウハウを得て「T」になって大成功したという点です。

だからヘンリー・フォードが偉かったのではなく、ビル・ヌドセンが偉かったのです。

ピーク時のフォードの米国におけるマーケットシェアは66%でした。しかし、この後でビル・ヌドセンとヘンリー・フォードは喧嘩別れします。そしてビル・ヌドセンが「浪人」したとき、ゼネラル・モーターズのアルフレッド・スローンがヌドセンをスカウトします。

アルフレッド・スローンはヌドセンを直ちに一番問題のあるシボレー部門に送り込み、シボレーは華々しいカムバックを果たし、GMとフォードのマーケットシェアは逆転します。このシェア逆転は、今日までも続いています。

ルーズベルト大統領の下で、兵器大量生産の責任者を任されたヌドセンは、軍事専門家の立場では無く、生産の専門家の立場から、生産計画を見直します。具体的にはリードタイムの長い部品(一例:航空機のエンジン)から急いで生産にかかります。また職人が「職人芸」で作っていた部品(一例:ロールスロイスの「マーリン」エンジン)を、熟練工でない一般の工員でも作れるよう、オートメーションの機械を先ず作ります。


連合国はドイツのフォッケウルフFw190のような優秀な戦闘機に対抗するため、主に高高度でのパフォーマンスに重点を置いて次期戦闘機の開発をします。

高高度では空気が薄くなり、エンジンのパフォーマンスが劣化するので、ターボ・チャージャーを付ける事が必須になりました。ターボ・チャージャーの有名なメーカーはゼネラル・エレクトリックです。

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P51ムスタングは、当初、アメリカ製のアリソンという低空で最適パフォーマンスを出すエンジンを搭載していましたが、それではドイツ本土爆撃をするB17の護衛が出来ないため、イギリスのロールスロイスのデザインしたマーリンに急遽切り替えます。このデザイン変更で、P51Bは機首が重く、操縦の難しい戦闘機になりました。

最高速度は、どの高度で測るかにより結果に大きなばらつきが出ます。

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次に航続距離ですが、メッサーシュミットBf109やフォッケウルフFw190などのドイツの戦闘機の航続距離が極めて短い点が注目されます。これが英国本土決戦で、ドイツの爆撃機に対するドイツの戦闘機の護衛が十分でなく、結果的に大きな損失を出した一因だと言われています。

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エンジンの馬力を見るとスピットファイアに搭載されたロールスロイスのマーリンがいかに優れたエンジンであったかがわかります。なおP47Dサンダーボルトのエンジンはプラット&ホイットニー(=現在、ユナイテッド・テクノロジーズ)のR2800空冷星型エンジンです。

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エンジンのパフォーマンスに機体のデザインが制約を受けます。

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なお戦闘機の性能は全体的なバランスの方が個々のデータ・ポイントより需要なので、個別の指標だけを抽出して優劣を論じるのは、意味がないです。上の一連のグラフは、あくまでも米国がどこにフォーカスを絞って開発を行ったかの説明に過ぎません。