グーグルはWi-Fiを完備した豪華な社員通勤用バスを、何台も所有しています。これはサンフランシスコ市内に住む同社の社員が、交通渋滞の中を自分で運転して54km離れたシリコンバレーにあるグーグル本社に出勤するのは、社員の時間と労力のムダだし、環境にも良くないという配慮から始まったことです。

アメリカには「カープール・レーン」と言うものがあって、ラッシュアワーに多人数で「乗り合い」をしているクルマやバスは、優先レーンを走ることが出来ます。他のレーンが渋滞していても、そのレーンだけはスイスイ走れるのです。

日本のウェブを見ると、グーグル・バスは「快適そう」とか「カッコイイ」とか「うらやましい」という声が多いです。

でも、ここサンフランシスコでは「グーグル・バスに乗っている奴は、絶望的にダサい。シリコンバレーというビジネスモデルが、破たんしている事の、何よりの証拠だ」とクソミソに言われています。

グーグル・バスが、暴徒にボコボコにされる事件も起きたりして、それ以降、各社はバスの塗装から自社のロゴを消し去り、真っ白にして走っています。

なぜグーグル・バスはこれほど市民の反感を買うのでしょうか?


ひとつにはハイテク企業に勤める若手社員がどんどんミッション・ディストリクトなどの、昔は労働者階級の住む場所だったところへ引っ越してきて、家賃の高騰を招いていることが指摘できます。

シリコンバレーには、お洒落な盛り場が無いので、とりわけ若い社員は、出会いや、エキサイティングさの無い郊外には住みたがらないのです。

昔はシリコンバレーでも実際に半導体を作っていたので、同業者や関連業者が多く居るサンタクララなどに密集して起業することには大いに意味がありました。

しかし1960年代には半導体企業ばかりが起業されたのに対し、1970年代に入るとパーソナル・コンピュータやその周辺機器、1980年代にはソフトウエア、1990年代にはネットワーク機器やインターネット関連の起業という風に、だんだんハイテクの中における産業構造自体も変遷しています。

現在はSNSやモバイル・アプリなどの起業が多いわけですが、それらのビジネスは半導体製造装置の会社や記憶装置の会社が隣接している必要は、全くありません。

むしろ新しいサービスを発想する時に、人のつながりや、若者の行動を観察する必要が出て来るわけです。それはつまり大都会のデンシティー(density)が、新しいサービスを考える上でアドバンテージになることを意味します。

ユニオン・スクエア・ベンチャーズのフレッド・ウイルソンが、彼の投資先企業、エッツィーのオフィスを訪ねた時、創業者ロブ・ケイランはオフィスでギターを弾いて自作の唄を口ずさんでいました。

「いやー、きみがシンガー・ソングライターだとは知らなかったよ」と言ったフレッドに対し、ロブは「フレッド、僕はアーチストなんだ。だから若し僕が1960年代に育っていればフォーク・シンガーになっていたと思うし、1920年代に育っていれば画家をやっていたに違いない。でも今はウェブサイトを作ることが芸術なんだ」と言ったそうです。

フレッド・ウイルソンはそのときの経験から、テクノロジーがこれまでのエレクトリカル・エンジニアリング(電子工学)からソーシャル・エンジニアリング(社会再構築)へと移りつつあると主張しています。そして今後はサイエンスよりアートを良く理解できる起業家が成功するだろうと主張しています。そして「アーチストというのは昔から大都会に引き寄せられる傾向がある」と指摘しています。

ツイッターの創業者のうち、エヴ・ウイリアムズとビズ・ストーンは、自分達の会社、ブロガー(Blogger)をグーグルに売却したので、短期間だけグーグルの社員になりました。でもグーグルの息苦しくなるような社風が合わず、ビズ・ストーンの場合、2億円のストック・オプションの権利を放棄して、サッサと会社を辞めてしまいます。つまり、彼らはアーチストなのです。

本来、ミッション・ディストリクトなどのボヘミアンな界隈は、乞食やアーチストがたむろしている場所です。一方、グーグルやフェイスブックの本社は、別にSAPやオラクルのオフィスと外見は大差ありません。つまり大企業臭さがプンプンしているわけです。

すると「なんちゃってボヘミアン」みたいに、夜だけは芸術家を気取ってダウンタウンのナイトライフをエンジョイし、朝がくるとサラリーマンまるだしの社畜に戻り、いそいそとグーグル・バスに乗り込む……この欺瞞に満ちたエリートたちの姿を、筋金入りのボヘミアンたちは「イタイ連中だ」と揶揄しているわけです。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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