僕は人口動態が投資戦略にもたらす影響を重視しています。

例えば1980年代終盤は、「アメリカの支配の終焉」ということがしきりと言われて、1987年にニューヨーク株式市場が大暴落したことも相まって、ラビ・バトラに代表される終末論が大人気を博しました。

その中で「デモグラフィー(人口動態)的に言えば、これからアメリカは最も豊かな時代に入ってゆき、金融資産も膨張する」と当時ジェトロ国際経済課長で『ベビーブーム』の著者、長坂寿久氏が主張していたのを鮮明に覚えています。これは明らかに少数派意見でした。

僕はその本が出た年、日本株から足を洗って、アメリカ株に乗り換えるという、人生の一大決断をする時期にさしかかっており、長期で見た米国経済の健全さを正しく把握する必要性を、人一倍、ひしひしと感じていました。

まあ、結果的には、こういうことです。

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日経平均は未だその当時よりずっと下のところをウロウロしている一方で、S&P500指数は6.6倍になっている……

『ベビーブーム』を今、読み直してみると、そこに書いてあることがイチイチ当たっているのに改めて驚かされます。

さて、最近、アメリカでは、ミレニアル世代の生態が注目されています。ミレニアル世代とは、ピュー・リサーチ・センターの定義では、1981年から2000年までに生まれた世代です。年齢的には33歳を先頭として、13歳までです。彼らは「ジェネレーションY」と呼ばれることもあります。

ミレニアル世代が一体、どんな生態をしているかについては、色んな研究があるけれど、今年に入ってから、特にその特徴が鮮明に意識されはじめているように感じます。

具体的には:

クルマに興味がない
郊外に住みたがらない
シェアすることを、厭わない
環境問題、社会問題などへの関心が高い


などです。


このリストを眺めるだけでは、その経済へのインパクトは想像しにくいかも知れませんが、良く考えると深遠な意味合いを含んでいます。

たとえばクルマです。

僕のワイフはもともとテキサス州ヒューストンの出身ですけど、高校はシアトルでした。運転免許を取得できる年になると、他の同級生が皆そうするように、ソッコーで免許を取って、中古のマニュアルシフトのトヨタを買いました。

ワイフは、そのときのことを「胸がすくような、自由を手に入れた気がした」と回想しています。

つまり、我々ベビーブーマーにとってはクルマはFREEDOM(自由)の象徴であり、親に断ること無くショッピングモールに買い物に行ったり、デートしたりすることが出来る、「大人になるための通過儀礼」だったのです。

だから、『グリース』や『アメリカン・グラフィティ』などの青春映画には、必ず自動車が登場します。

(この感覚は、電車や地下鉄が整備されている日本に住んでいる人たちには、ちょっと想像できないかも知れません。でも早い話、アメリカの郊外ではクルマが無いと何処へも行けないのです)

これに対してミレニアル世代は「クルマとスマホの、どちらを取る?」と訊かれれば、ほぼ全員、スマホと答えるそうです。つまり自由の象徴は、スマホなのです。

下の息子は、もう18歳になるのに、未だ免許を取ろうとしません。(カリフォルニアでは15.5歳から運転できます)

「おまえ、早く免許取れよ!」

と言っても「興味ないよ」としか答えません。

「興味ある、ないの問題じゃないんだよ。お前が免許とらないと、オレがアッシー君しないといけないじゃないか! 貴様、18歳にもなって、許せん!」

と喧嘩腰になるわけです。彼らにとって、クルマは所有するものではなく、ZIPCARのように借りる、ないしはシェアするものなのです。

ミレニアル世代は、サンフランシスコ市内やマンハッタンのような大都会に住みたがります。どこへ行くにしても排気ガスをまき散らすクルマにのらなければいけないという郊外のライフスタイルは、彼らの美意識に反するのです。

彼らはリーマン・ショック以降の厳しい環境下で雇用市場に放り出されたので、ベビーブーマーほど物欲主義は強くありません。マックマンション(McMansion)と呼ばれる、郊外の、狭い敷地に家だけはデカい、無個性な団地を、心底敵視しています。むしろ友達と大都会のくたびれたアパートで共同生活することを理想とします。

つまり、だだっ広い郊外ではなく、密集した(density)コミュニティから、いろいろエキサイティングで、面白いものが出てくるという価値観です。

その点、世界で東京ほどデンシティーの高い都市はそう多くないので、東京には期待が持てると思います。

さて、このような価値観の差が、実態経済に与える影響は甚大です。

一例として、サンフランシスコ市内のミッション地区にどんどん若者世代は入ってゆき、結果として黒人が高騰する家賃にたまりかねて郊外に転出していることは以前にも書きました。

このような変化は、サンフランシスコの対岸のオークランドですら起きています。以前はオークランドは黒人のコミュニティがしっかり定着していました。ところが今、そのオークランドの黒人人口が激減中なのです。

彼らはアンティオックなどの、もっと郊外へと移って行っています。アンティオックではクルマが無いと生活できないのですが、「クルマは今や底辺層のライフスタイルだ」とまで言われ始めています。

クルマと郊外の住宅は、切っても切れない関係にあるので、このことは住宅市場の回復にも影を落とします。実際、サブプライム・ブームの末期に開発された、都心から遠い団地ほど回復は遅いし、新興成金の住む場所から、一足飛びに、低所得者層の住む地区へと変貌しつつあるそうです。

こうして考えてくると、日本の若者の間でもシェアハウスが話題になったりする現象が、理解しやすくなります。