最近マーケットがギクシャクしていますが、僕は長期で見たドル高基調には変化は無いと考えています。

その理由を説明します。

先ずOECDによる世界のGDP成長率の見通しを下に示します。

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緑と赤の矢印に注目して下さい。これは上方修正、下方修正の方向を示しています。つまり日本と中国だけが下方修正されているということです。これは為替で言えば円安要因です。

次に同じ表の中の黒い数字を眺めたいのですが、2015年の列を見ると日本のGDP成長率が一番低いです。これも円安要因です。

色々数字が多すぎて、この表は見にくいと思うので、この中からアメリカ、日本、ユーロ圏だけを取り出します。 それが次のグラフです。

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2013年、つまり今年は日本が一番でした。しかし日本の優位性はだんだん失われてゆきます。緑はユーロ圏です。マイナス圏だったのが、だんだん盛り返し、2015年には日本より高くなることが予想されています。

アメリカは今年、歳出一斉削減、政府機能の一部閉鎖、債務上限引き上げ問題の迷走など、いろいろな問題がありました。その関係で成長が少し落ちました。でも来年からは再び力強く成長すると見られています。

つまり成長率の変化率のベクトルで言えば、米国は上、ユーロ圏も上、日本は下なのです。2014年に一段の円安が期待できる最大の理由はこれです。

次に各国の中央銀行の政策のスタンスを見ます。現在は日銀、連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)ともに量的緩和政策を維持しています。特に緑の日銀と赤のFRBは積極的に債券の買い入れを行っています。日銀の緩和はいちばん腰が据わっているので、これはあきらかな円安要因です。

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しかも来年にはFRBが債券買い入れプログラムの縮小をはじめるので、赤の線は下向きになる可能性があります。このグラフが上に反れていれば反れているほど、中央銀行が積極的に緩和していることを意味し、それは通貨安を意味します。

次にインフレ率を見ると来年の春から日本のインフレがジャンプすると見られています。これは消費税増税の影響です。

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企業の経営者は、ほんのりインフレ気味の時に、いちばん事業拡張に積極的になるといわれています。つまり来年は日本の経営者が積極的になる要因が待ち受けているわけです。アベノミクスがデフレ脱却を目指している理由はここにあります。

アベノミクスに関しては、それに賛成意見の人も居れば、反対意見の人も居ると思います。ただアベノミクスが達成しようとする目的がデフレ脱却なのだとしたら、好むと好まざるにかかわらず、来年、アベノミクスはその目標を達成すると考えて、ほぼ間違いありません。

なお、今回、消費税増税が決まったわけですけど、それでもまだまだ日本の消費税は先進国の水準から比べて低すぎます。

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消費税の徴収不足は日本政府の財政が不健全になっている主な原因です。だから来年実施されることが決まった消費税増税は、これが最後ではありません。また2年くらいすると、さらに消費税の増税があるはずです。そのような度重なる消費税の増税は、GDP成長率を下押しする効果があります。だからアベノミクスは当分、続けなければいけないのです。


アメリカは、ほぼ間違いなく世界最大の産油国になります。2013年現在で、既にサウジアラビアを抜いていると見るエネルギー・コンサルタントも居ます。

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ノースダコタ州のバーケンなどにおけるシェールオイルの生産の急速な増加が、この背景にあります。

次に天然ガスの生産を見ると、こちらも既にアメリカが世界一になっています。

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つまりエネルギーの覇権は、米国に移りつつあるわけです。皆さんは産油国の通貨は、強いと思いますか? それとも弱いと思いますか? 僕なら、今後、貿易収支が改善するであろう米ドルに極端な弱気の相場観を持つことは危険な気がします。

アメリカが2015年から液化天然ガス(LNG)を輸出し始めると、欧州市場に手強い競争相手が登場します。これはロシアのガスプロムの独占を脅かします。ロシアは近年、再びエネルギー政策に手抜きが見られるようになった気がします。

これまで世界の原油の需給バランスは、サウジアラビアがスイング・プロデューサーとなることで調整役を果たしてきました。しかしアメリカの増産で世界の需給バランスが崩れたら、それをサウジだけで調節できるでしょうか?

またメキシコ、ベネズエラ、カナダなどの、伝統的にアメリカと原油取引をしてきた国々も、今後対米での収支が、かなり悪化する危険があると思います。特にメキシコやベネズエラは要注意です。

さて、アメリカが最大の産油国として君臨しはじめると、それは中東やロシアなどの、単一のコモディティに経済を依存している国々の政情不安を招きかねないことを最後に指摘しておきます。

下は1900年代初頭の世界の原油生産のグラフです。

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帝政ロシアの石油のほぼ全ては、現在のアゼルバイジャンにあるバクー油田から生産されていました。一方、米国の石油はペンシルバニア州の油田です。これを見ると、日露戦争の頃までには、既にバクーの原油生産はトラブルに陥っており、これが帝政ロシアの不安定化の一因となりました。皆さん御承知のように、この12年後には、もう帝政ロシアという国はなくなってしまうわけです。

さらに1980年代の終盤にもソ連は原油生産のスランプを経験します。この時は安いエネルギーを実質的な補助金として受け取っていた、ソ連の衛星国が続々ソ連から離脱を試みます。

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「有事のドル」という言葉がありますが、今後、世界の産油国が強いられる期待値の下方修正は、地政学的なリスクも高まることを示唆しているのではないでしょうか?

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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