昨日、時価総額ベースで世界最大のカジノ企業、ラスベガス・サンズ(ティッカーシンボル:LVS)が「スペインでの総合カジノ・リゾート建設計画を断念する」と発表し、スペインの財界を落胆させました。

この総合カジノ・リゾートは1万8千基のスロットマシンを備えた6つのカジノ、総客室数3万6千室におよぶ12のホテル、3つのゴルフコースなどから成る総工費300億ドルの巨大なプロジェクトで、バルセロナとマドリードが候補地として争っていましたが、最終的にマドリードが選ばれた矢先でした。

スペイン政府はラスベガス・サンズのこのプロジェクトがギリシャ危機以来低迷してきた同国の経済に活を入れるきっかけになって欲しいと期待していました。特にスペイン経済は建設業、不動産開発などに対する依存度が歴史的に高く、この手のプロジェクトは広くスペインの不動産市場全体を活性化すると期待されていたわけです。

ラスベガス・サンズが「ケツをまくった」理由は、カジノ運営権の授与に際してスペイン政府がいろいろ条件を付けたことが原因だとされています。スペイン政府は「リスボン条約(=実質的なEU憲法)との関係で、勝手にスペインだけがルールを曲げられない」としてカジノ施設内での喫煙OKなどの譲歩を拒みましたが、例外だらけの欧州で、この逃げ口上は説得力に欠けるものがあります。

また総合カジノ・リゾートには野党や宗教団体も反対の意見を表明していました。つまり誰もがカジノ誘致を歓迎していたわけではないのです。

しかし……

ホンネを言えば、まさかラスベガス・サンズが土壇場でサヨナラするとは誰も思っていなかったフシがあります。スペインの失業率は26%、若者の失業率に至っては50%を超えています。いざ立ち消えになってみると「あーあ、あの時、何で譲歩しなかったんだろ」という後悔の念が湧きあがって来るわけです。


ラスベガス・サンズはマカオで最初のカジノではありません。もともとマカオにはカジノが存在したことは沢木耕太郎の『深夜特急』などにも活写されています。ただ、マカオが『深夜特急』に描かれているような、うらびれた場末的なギャンブル窟から、総合エンターティメント・センターに変身するには、アメリカの運営ノウハウがどうしても必要であり、それをどえらいスケールで移植した最初の企業がラスベガス・サンズだったのです。つまり総合的なファイナンス力、プロジェクト遂行能力、運営ノウハウなどを全部具備したプレーヤーがラスベガス・サンズというわけです。

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(僕のような投資家の目線で言えば、ラスベガス・サンズはバレエでいうプリマドンナのような存在です。だから同社を噛ませない開発計画なんてありえないし、若しそれらの実績じゅうぶんのオペレーターが排除されるのであれば、裏での不正、情実を疑わざるを得ません)

なお、今回、スペインが棄てられたのには、もうひとつの理由があります。それはアジアにおける投資機会がぐんぐん重要度を増しているという点です。日本でもカジノ解禁が国会で議論されることになるでしょうし、韓国も総合カジノ・リゾートの誘致に積極的です。それらのデカイ投資機会を目の前にして、ラスベガス・サンズは(この際、アジアに集中しよう)と考えたに違いありません。

ラスベガス・サンズのニュース・リリースを読むと、韓国と日本の投資機会については平等に扱ってありますが、日本人としては同社の優先順位は日本にあると信じたいです。ただ韓国は既にカジノを許可した実績もあるし、日本では既得権益者からの反対も予想されます。

あまりうるさい注文をつけると(せっかく作るなら、ショボイものは作りたくない)というラスベガス・サンズ社の美意識に照らして、日本のルールが窮屈過ぎて、伏兵の韓国に鳶に油揚げをさらわれるリスクもあるというわけです。
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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