今年はデカい通貨危機が起こると思います。

お前、自信満々になぜそんなこと言えるのかって? 

今の状況は、90年代のアジア通貨危機の当時と酷似しているんです。

ドットコム・バブルが弾けた後、エンロン、ワールドコム、タイコ・インターナショナルが相次いで危機に陥り、その全部と融資関係があったJPモルガンの業績が悪化し、沈みかかった船から家具を海に投げ込むように「ポイッ!」とリストラされた僕は、(次になにをやるかな?)と身の振り方を考えました。

「うちに机、拭きに来い!」

シュローダーの米国の責任者から独立し、ハイテク系のヘッジファンドを立ち上げた友人からの引きがあって、カーニー街の彼のオフィスに居候させてもらいました。

でも……(いまやっとテック・バブルが弾けたばかりなのに、今からテックを手掛けるなんて、1991年に日本株に進出するような、アホな行為だ)というキモチが自分の中に強くあったので、喧騒なトレーディング・ルームを避け、ルーターのスタックが収納されているネットワーク室に籠って、いつかは整理してみたいと思っていたけど、忙しくて後回しにしてきた自分の疑問について研究してみようと思ったのです。それは……

通貨危機は、なぜ起こるのか?

という問題です。

これは複雑系の問題で(笑)答えは単純ではありません。でも自分の中で、何か法則めいたものを発見できれば、今後の投資に役立つと思ったのです。そこで、およそ通貨危機に関する文献は手当たり次第に読みました。中でも最も深く、克明なデータを添えた議論を展開しているのはUCバークレーのバリー・アイケングリーン教授とその弟子たちでした。

僕の到達した結論は『Market Hack流世界一わかりやすい米国式投資の技法』の172ページ以降に惜しげも無く(なんかAV女優が脱ぐっ! みたいな言い回しだな)披露されています。それは:

1)現在の輸出額が、ピークより5%以上落ち込んだら要注意
2)経常収支が赤字で、しかも赤字幅が通常の範囲を逸脱して増え始めたら注意
3)外貨準備が減りはじめたら赤信号


というものです。

僕はNAFTAの後のメキシコのペソ危機もリアルタイムで経験しているし、タイのバーツ危機に端を発するアジア通貨危機も目の当たりにしました。ロシアのルーブル危機でゴールドマンサックスをはじめニューヨークの主要投資銀行のトップが連邦準備制度理事会に緊急招集された日のトレーディング・ルームの混乱もつぶさに見ました。あの時は結果として『ライアーズ・ポーカー』の登場人物のひとり、ジョン・メリーウエザーが主宰するヘッジファンド、LTCMが破綻しています。そしてその3年後にはアルゼンチンのペソ危機も経験しました。

でもそれらの実地での体験を、体系的に整理し、「あれは一体、何だったんだろう?」ということをデータと首っ引きで、丹念に辿り直すということは、投資銀行をクビになって時間に余裕が出来るまではやれなかったのです。

こうやって自分なりに危機への経路を再構成してみると、改めて(警告のサイレンが「ウー、ウー」と鳴っていたんだな)ということを理解することができました。

ま、前置きはそのへんにして、今われわれの眼前にある状況をちょっと見る事にしましょう。先ず各国の経常収支の悪化がひどい。

下は先日、通貨の切り下げのあったアルゼンチンです。赤で囲った部分に注目して下さい。

アルゼンチン

悪いですよね?

でも他の国は、こんな生易しいもんじゃないです。例えばブラジル。

ブラジル

酷い事になってますよね?


ラテンアメリカでは経済運営が手堅い事で知られてきた優等生のチリ。

チリ

ここは中国への銅の輸出が不振で、いま苦しんでいます。


アジアに移ってインドです。ものすごく醜悪です。

インド

アジア通貨危機の際、壊滅的な打撃を受けたインドネシアはその後、改心して保守的な経済運営を標榜したのですが……ホレ、この通り、また昔の悪いクセがぶりかえしています。

インドネシア

ロシアの場合、天然ガスや石油を輸出しているので経常収支は大幅に黒字で当り前です。でも最近は米国のシェールガスなど、ライバルが登場して、輸出が上手くいってない。さらにウクライナで社会混乱が起きています。あそこはロシアから欧州へのパイプラインが通っている国……だから何かあると万事休す。あ、それからソチ五輪の準備費用で政府が500億ドルも浪費したことも記憶に新しいです。

ロシア

ロシアの場合、経常赤字にならなくても、前回のルーブル危機の際はトントンで混乱が起きています。いま、その水準に限りなく近づいています。

あとヤバいんじゃないかな? と思うのが南アフリカ。

南アフリカ

もうひとつバクダンを抱えてる国がトルコ。

トルコ

90年代のアジア通貨危機の時は日本で山一や拓銀がおかしくなっていた頃で、アジア諸国は対日輸出の不調に苦しんでいました。

今は中国がシャドーバンキングの整理にいそがしく、輸出・輸入ともに鈍化しています。

僕は今の段階では「シャドーバンキングが崩壊する」論者では、ありません。そうではなくて「シャドーバンキングが崩壊しない場合でも、新興国はプレッシャーを受けて通貨危機が起こる」ということを主張しているのです。


次に当時アジア各国は自国通貨を緩くドルにペグしていた関係で、国内金利がFRBの金利政策に引き摺られました。信用成長はGDPの2倍以上のペースでした。

現在は中国が人民元をドルに緩くペグしているので、長年、中国の信用成長はGDP成長の2倍以上でした。不動産バブルの原因は、ここにあるのです。

中国政府はシャドーバンキングの抑制にとりかかっています。これは良いことです。でもその影響で中国の民間企業は、いま借金の借り換えで深刻な問題を抱えています

アジア通貨危機のときはタイやインドネシアは短期借り換えの必要な債務が全体の56%前後を占めていました。このようにロールオーバーに対する不安が出ると投資家は浮足立ちやすいです。

シャドーバンキングは民間が主なのでこれとは状況が異なるけど、ファンディングの種類で言えば、同じく短期です。僕の計算では66%が2年以内にロールオーバーされる必要があります

今回、世界が通貨危機を回避しようと思えば、上に列挙した全ての国が、ミスをせず、慎重に難局を切り抜ける必要があるのです。

これはカンタンではないと思います。


PS. 駆け足での説明になってしまいましたが、このテーマに関連して2月25日に楽天証券主催セミナー『新興国経済の変調にどう対処する?』でもっと精緻な議論をしたいと思います。ご興味のあるかたはご参加ください。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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