2月19日に警察隊がデモ隊と衝突し、独立広場の大部分を鎮圧した時、ウクライナのデモは終わったかに見えました。

しかし2月20日、警察隊が銃撃を交えて最後のデモ隊を排除しようとしたところ、スキーマスクで覆面した一群の若者達がバリケードから飛び出し、警察隊の銃列に猛然と飛びこんでゆきました。20名ほどの若者達は撃たれて倒れましたが、残りの若者達は警察隊の中に飛び込んでゆきました。これによって警察隊は蹴散らされ、独立広場は再びデモ隊が制圧しました。この衝突で警察隊にも死者が出て、合計70名ほどが命を落としたそうです。

ヤヌコビッチ大統領は形勢悪しと見て反対派指導者と停戦に合意し、首都を離れ、ロシア行きの飛行機で亡命しようとしますが「渡航許可が無い」という理由でフライトを拒否され、やむなくウクライナ東部の故郷の支持者たちの居る地域に移動しました。

ウクライナ議会は大統領の罷免を投票で可決しました。ヤヌコビッチ大統領は大統領の職務を遂行するのに不適格(constitutionally unable)というのが罷免理由です。

しかし議会のこの決議がウクライナの憲法に照らして合憲であるかどうかは、議論の余地があります。なぜならウクライナ憲法では大統領を罷免する際は先ず大統領が背任罪を働いたとして起訴し、調査委員会を設置した上で特別検事が事実調査を行うことになっているからです。そこでの調査結果が議会に送られ、議会の75%が大統領の罷免に賛成し、それがさらにウクライナの憲法裁判所で承認されて、はじめて罷免が成立するのです。

従って昨日の決議は「非常時だから」という理由でそうした正式の手続きを全部すっ飛ばしたことになり、その合法性に疑問の余地が生じるというわけです。

今回の事態の進展から「ウクライナが東西に分かれるのではないか?」という観測が出ています。これは滑稽なシナリオではありません。なぜならウクライナはソ連時代に大量のロシア人がウクライナに強制移住させられた歴史があり、その関係でロシアに対して親近感を持つ国民も多いからです。

乱暴に言えば、ウクライナはキエフを中心として東と西に真っ二つに分かれており、言語的、文化的、宗教的に異なるエスニック・グループを形成しています。東ウクライナはロシア寄りで、西ウクライナは欧州寄りなのです。

両地域は経済的にも雲泥の差があります。東には大きな産業が集中しており、その中心であるドニエプロペトロフスクの一人当たりGDPは4,748ドルで、西ウクライナの中心都市リヴィヴの一人当たりGDPの2,312ドルを圧倒しています。

ウクライナが東西に分断される場合、キエフがどちらにつくのか(キエフの真ん中をドニエプル川が流れています)、そしてロシアの軍港のあるセバストポリの帰趨が当然、注目されるわけです。

昨日ウクライナ議会が決議したように繰り上げ総選挙が実施され、ウクライナがロシアの影響圏から離脱するというシナリオは、当然、ロシアには容認できない事態です。しかし今回、ロシアは鷹揚に構えて、全く動きを見せていません。

この第一の理由は言うまでも無く、今、ウクライナに近いソチで冬季オリンピックが開催されており、その最中にお祭り気分を害するようなことはしたくないという計算があると思います。

さらにロシアは反政府派のスタミナが切れるまで、じっくり時間をかけて相手を泳がせているという解釈もあります。 ロシアはヤヌコビッチ大統領に対しても、あたかも梯子を外したかのような、クールな態度を取っています。

これは必要であれば、後日、ロシアは幾らでもウクライナを締め付けることが出来ることによります。なぜならウクライナにはロシアの「ソユーズ」ならびに「兄弟」パイプラインが通っており、ロシアから西欧に輸出される天然ガスの80%が、ウクライナを通過するからです。

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(出典:ウィキペディア)

ウクライナはそのパイプラインにより天然ガスをロシアから供給されており、西欧諸国への売り渡し値段より安い価格を保証されています。EUの天然ガスの25%はロシアから提供されているのです。

したがって若しロシアがウクライナの扱い方を間違えると、単に衛星国のひとつを失うだけでなくロシア最大の外貨獲得企業であるガスプロムの経営をも根幹から揺るがしかねないことになるわけです。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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