ロシアが素早い行動でウクライナ内のクリミア自治国にあるロシアの権益を確保する行動に出たので、国際社会は驚いています。

ロシアの兵隊をクリミア半島に増派したのは、セバストポリにあるロシア黒海艦隊基地の借地契約に違反する行為に当たります。でもクリミア半島はもともとロシア人が過半数を占めており、親露的です。

今回の増派を歓迎する地元民も多いと思います。勿論、いまのところ衝突も起きていません。

問題は、ここからです。

僕はロシアが一旦、親露的な地域でのロシア軍のプレゼンスを上げてしまえば、そこからは睨み合いになると考えています。

なぜならコトを構えると、むしろ弱いのはロシアだからです。

ロシア経済は天然ガスや石油に依存する、産油国型の構造になっており、それらを外国に買ってもらわないと、ロシア人の大好きなグッチなどのブランド品を輸入できなくなります。このへんはサウジアラビアなどの石油成金国と殆ど変わらない構図です。

天然ガスは最も重要な外貨獲得商品であり、欧州市場が主要顧客です。その仕向け先はボリュームベースでは次のグラフのようになっています。

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青の破線で囲った部分は旧ソ連の衛星国で、彼らに対しては今でも「補助金」的な、ディスカウント価格で天然ガスを売り渡しています。そうしないとこれらの国々はロシアから離れて行ってしまうからです。

それ以外の国にはブレント原油価格に連動するような算出方法で値決めをしてきました(これは最近、見直されています)

いずれにせよ、ちゃんと「正価」で買ってくれる、ドイツをはじめとする各国は、大事なお客さんなのです。


問題はロシアから欧州各国に輸出される天然ガスの8割は、ウクライナを通過するパイプラインを経由して送りだされている点です。

ウクライナはロシアの天然ガスを買ってくれるお客さんであると同時に中継点でもあります。

つまりロシアはウクライナの首根っこを掴んでいると同時に、ウクライナからキンタマを握り返されているのです。

ロシアがウクライナを経済的に困らせようとすると、ちょっと天然ガスの圧力を減じてやれば良いのです。

するとイタリアやドイツで「あれ、ガスの圧力が、下がってるけど?」とウクライナに疑惑の目が向けられます。

「ボクは、下げてません。あなたの分の天然ガスも、掠め取ってはいません!」とウクライナは主張するだろうけど、天然ガスはしょせん、トコロテン式にパイプラインの送り口から突っ込まれ、「これは誰の分」もヘチマも無いわけですから、犯人の特定が困難です。

ドイツとウクライナの間で、不協和音を醸しだすように仕向けるのは、赤ん坊の手をひねるより簡単というわけです。

ただ、逆に言えば天然ガスの圧力を下げることで、いちばん苦しむのは、ロシアのガスプロムなのです。ガスプロムの販売する天然ガスの大部分はロシア国内で消費されますけど、それは「奉仕価格」で売られているので、利幅は無いに等しいです。ガスプロムの利益の大半は、西欧の輸出市場から稼ぎ出されているのです。

「パイプラインの圧力が下がったゾ!」という噂が出れば、ルーブルは急落し、ロシアの外貨準備は急減するに違いありません。

もちろん、ウクライナでロシアがドンパチ始めれば、ロシアの輸出経路を自分で塞ぐことを意味し、「ぶちこわし」です。

どのみち親欧派の西ウクライナは、跳ねっ返りネエチャンみたいな手に負えない不良少女です。暫く泳がせておけば、必ず昔の悪いクセがぶり返して、不正、腐敗が出て来る……つまりロシアとしては、この悪ガキに「もう面倒見切れない!」とドイツをはじめとするEUが音を上げるのを、鷹揚に待っていれば良いわけです。


(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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